「時すでにおスシ!?」が40代以下のコア視聴率トップ 「日常」を描いた物語が高い評価を得ている理由

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恋になるのか

 みなとは周囲の人を変えていったが、最も変化したのは自分である。

「いろんな方と出会って、自分が豊かになったと思うんです」(同)

 学校に入るまでは羅針盤を失っていた。「自分の人生、迷子になっていました」(第1話)。渚が独り立ちすると、生きがいが母親であることしかなかったことに気づき、愕然とする。クラスメイトとの出会いが自分を豊かにした。

 しかし、クラスメイトより遥かに大きかったのが講師・大江戸海弥(松山ケンイチ)との出会い。古臭く、不器用だが、少年のように純粋な男だ。

 大江戸には痛恨の過去がある。自分の店の若い板前たちを厳しく指導したところ、猛反発されてしまい、それが基で店は潰れた。家で荒れたのか、妻の澪(土居志央梨)とも離婚する。再出発を期して学校の講師になった。

 当人たちは気づいていないようだが、みなとと大江戸は似た者同士だ。どちらも途方もなく大きなものを失い、その喪失感からの再生を目指している。

 大江戸はみなとに甘え、みなとも大江戸に好意を抱いているが、お互いに同じ匂いを感じるのが惹かれ合う理由の1つだろう。単純な物語ではないから、恋に変わるかどうかは分からない。

 第4話。みなとと大江戸は焼き肉を食べに行く。大江戸がスーパーの福引きで招待券を当てたからだ。この場でみなとは自分の傷口を大江戸に見せる。航への罪悪感の告白である。他人に明かすのは初めてだった。みなとの大江戸への信頼が表れていた。

 みなとによると、航が自分のハンカチを干すとき、洗いざらしのまま干したことにムッとした。シワだらけになるからだ。みなとは普段の自分の苦労が分かっていないと思ったのだろう。

 事故の日、みなとはシワだらけのハンカチを出勤時の航にわざと渡した。よくある夫婦間のちょっとした意地悪だ。それに航も苛立ったらしく、黙って家を出た。だから、みなとは見送れなかった。

 直後、航は事故に遭う。病院に駆け付けたみなとは動転し、航の持っていたハンカチのシワを懸命に伸ばす。シワが消えたら、事故が全てウソになってくれると考えた。

 大切な人が生きるか死ぬかのとき、冷静でいられる人はいない。それを兵頭氏はシワ伸ばしで表した。しかも前の物語と矛盾なくつながっていた。この作品には無理に泣かせようとするシーンが一切ないが、みなとのシワ伸ばしに涙した人はいるのではないか。この作品が高い支持を得て、ドラマ制作者すら唸らせている理由がここにある。

 航が危篤のとき、みなとは混乱する自分の気持ちを抑えようと、病院の庭を闇雲に走った。人がおかしなことをしても不思議ではない局面だから現実味があった。みなとが走る姿をたまたま大江戸が見ていた。

 2人はお互いに運命の人なのか。それともタイトルの通り、2人の出会いは遅かったのか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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