「ろくちゃんはどこも悪くない。感謝する気持ちを忘れてはいけない」 和の鉄人「道場六三郎」が人生の窮地で噛みしめた“父の教え”
本当においしい顔は?
村田は『ほんまに「おいしい」って何やろ?』(2024年集英社)という著書の紹介を兼ね、「死ぬまでにやりたいこれだけのこと」がテーマだった。
京都の三代目のボンであることをひけらかすことも卑下することもなく、何事にも屈託がない。自然体で世の中のおかしなことを射抜く名人であり、言葉の味付けも天下一品。容赦なく、小気味いい。
例えば、輩(やから)。
コースで6万円から7万円もするような東京の予約を取りにくい店を、スタンプラリーのようにして食い散らかす人を「輩」と喝破した。
タイトルの「おいしい」についてはこうだ。
〈最近テレビを見ていて思うことがあります。食べ物を口に入れた途端に「おいしい!」とか「ヤバイ!」と叫んだりするタレントがいますが、おいしいってどういうことかわかってんのかなとか、本当においしかったらあんな顔せんやろと思います〉
京都人のボンの言葉に胸がすく思いだった。
村田は二代目の父親の期待を裏切るように、若い頃、日本料理ではなく、フランス料理を勉強するため、パリに修業に出た。その時の父親とのやり取りが面白い(前掲書から)。
〈日本料理は見飽きて、食べ飽きている。もう、刺し身やら天ぷらやら、日本料理をやってる場合やないな。そう考えて、思い切って「もう日本料理やなくてフランス料理をやります」と親父に言いました。そうしたら、親父からは、即こういう返事が返ってきた。「お前なんか当てにせえへんからな。お前の妹も二人おるし、弟もおるから、別に跡を継いでもらわんでもかまわん」「嫌な人間に継いでもらってもろくなことないから、好きにしたらええわ」「その代わり、お前、フランス料理をやるんだったらフランス行け」「明日、金用意するからさっさと行け」〉
最初から一番になれないものに…
こうしてフランスに出かけたが、こんな結論に至る。
〈一生こいつらにフランス料理で勝てることはないかもしれんな…こいつらの真似した料理を作るのは嫌や。最初から一番になれないものに一生をかけるのは嫌や〉
しかし、収穫があった。この「半年のヨーロッパ武者修行」で「何びとであろうと外国人に対して気後れする、腰が引けるというようなことがなくなった」という。
今にして思えば、二代目はすべてお見通しだったのだろうが。
フランス行きから50有余年。ミシュランで連続3つ星獲得、文化功労者、23年広島サミット料理担当、和食の無形文化遺産登録への活動。京都のボンの、規格外の行動力というべきか。
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