松本若菜vs鈴木保奈美『対決』に教わる 白黒つけすぎると外科医不足で命が失われる
「みんなが幸せになるとは限りません」
NHK BS/BSプレミアム4Kではじまったドラマ『対決』(池田千尋監督)。ある医大が入試で、女子の点数を意図的に下げているという情報を耳にした新聞記者の檜葉菊乃(松本若菜)が、その医大の理事で、疑惑から大学を守る立場の神林晴海(鈴木保奈美)と対決する――。そう記すと、正義の記者が悪を糺す物語のように受けとれるが、必ずしもそうではないようだ。
【貴重ショット】あどけない23歳が8歳年の離れた男と… 「鈴木保奈美」の“不倫現場”
松本自身、「CREA WEB」のインタビューにこう答えている。「白黒つけることで解決できることもあるとは思いますが、それでみんなが幸せになるとは限りません。今は、時と場合によってはグレーのままでもいいんじゃないか、と少しゆるやかに考えられるようになりました」。
何事も必ず長所があれば欠点もある。だから、きっぱりと「白黒つける」と、ある事柄の長所だけでなく欠点も受け入れ、温存させることにもつながる。
たとえばコロナ禍。感染症や公衆衛生の専門家たちが外出の自粛を呼びかけ、政府や自治体もそれを無批判に受け入れて「ステイホーム」と連呼した。その結果、コロナウイルスへの感染者数は多少抑えられたかもしれない。しかし、日常的に足腰を動かし、脳への刺激を欠かさないことが健康維持に必須の高齢者を中心に、別の角度からの健康被害が深刻化した。こちらの被害は、ウイルスへの感染者数と違って数値化が難しく、顕在化はしなかったが、「ステイホーム」は総合的にみると、健康への「長所」より「欠点」のほうが大きかったという指摘もある。
『対決』の内容に即していえば、「医大が入試で、女子の点数を意図的に下げている」と判明したとき、それを「黒」と断じてやめさせたとして、社会にとって前進と言い切ることができるのか、それが私たちの幸福に寄与するのか、という問題である。
差別は排除すべきだが
このドラマで2人の対決の軸になる「ある医大が入試で、女子の点数を意図的に下げている」というテーマは、実際、2018年に発覚して社会問題になった。
きっかけは文部科学省の局長が、東京医科大学を支援事業の対象に選ぶ代わりに、息子を不正に合格させてもらっていた汚職事件で、その後、同医大が女子受験生の点数を、長年にわたり一律に減点していたことも発覚した。これを最初に報じたのは、同年8月2日付の読売新聞朝刊で、『対決』の檜葉菊乃と同様、新聞記者の手柄によって問題が明るみに出たのである。
しかも、それを受けて文科省が緊急調査すると、同様の入試操作を、昭和大学(現・昭和医大)、神戸大学、岩手医大、金沢医大、福岡大学、順天堂大学、北里大学、日本大学、聖マリアンナ医大も行っていたことが明らかになった。文科省は各大学に是正措置を求めるとともに、性別や年齢を理由に合否を判定することは不適切だと明確に打ち出し、ガイドラインを策定。以前は3割前後にとどまっていた女子受験者の医学部合格率は、年によっては4割前後に達するまでに上昇した。
その後、2022年には東京医大の女性受験者が損害賠償を請求した事件への判決で、東京地裁は、「性別による不合理な差別的取扱いを禁止した教育基本法4条1項及び憲法14条の趣旨に反するもの」という判断を示した。
この判断自体は、妥当だというほかない。ただし、である。差別は排除すべきものだとしても、なぜ差別が行われたのかを検討し、差別が行われた背景に切り込まないかぎり、問題の根本的な解決にはならない。世の中、「白黒つける」だけで一件落着とはならないことが多い。『対決』はそのことへの示唆をあたえてくれる。
[1/2ページ]


