2億5000万円の保険がかけられた会社社長を、役員がネクタイで絞め殺し… 犯人は「主婦首なし殺人」でも逮捕の過去 今も残る「事件の最大の謎」とは【事件から20年】
“絶対、二人きりでは会わん”
「会社で糾弾された14日の夜、主人は一晩中公園に車を止め、帰ってきませんでした。よほど疲れたのか、帰ってきた翌日はコタツのあるリビングで食事を取りながら、眠ってしまいました。そんなことは結婚以来、初めてでした」
B社長の未夫人が振り返る。トラブルを知った夫人は、かつて京都で起きた「首なし殺人事件」が脳裏をかすめたという。夫に注意を促した。
「“Aさんと二人きりで会うのは危険だからやめて。会うなら周りに人がいる場所でね”と何度も念を押しました。主人も怖がっていて“絶対、二人きりでは会わん”と約束してくれていたんです」
警察の調べによれば、実は犯行前日の16日午後10時、AはC子と三田市内のファミリーレストラン「ガスト」で落ち合い、B社長から預かった300万円問題について話し合っている。C子はAから、借用書を作成するよう、指示されたという。横領にならないようにするためだ。どういうわけか、そこにはC子の別れた元夫も同席していた。
AからB社長へ呼び出しの電話があったのは、この16日のこと。
「C子のこともあるし、二人きりで話できへんか」
そう切り出してきた。警察調べでは、B社長は新生コンクリートの別の事務員にその電話内容を伝えている。そこで心配になった事務員が、社長の友人に相談した。相談を受けた人たちは、むろんAと二人きりで会うのは避けるよう助言し、B社長もそれを了承していた。そして17日昼過ぎ、万が一の場合に備えてB社長へ手渡されたのが、冒頭のIC ボイスレコーダーなのである。
見え隠れする共犯者の存在
「実はこの日の夕方4時ごろ、主人が、“今日、Aと会う”と電話で伝えてきたんです。私は驚いて、“絶対、二人きりはダメよ”と確認したら、このときも“分かってる”と答え、“大丈夫”とメールまでしてくれたのです。それが主人と話した最後の会話となりました。あれほど約束してくれたのに、どうして二人で会ったのか。その場所がなぜ、会社なのか。主人をおびき出すために、事件現場に他の誰かがいて、主人は安心してその場に行ったのではないでしょうか」
未亡人は言葉を詰まらせた。
二人の待ち合わせ場所は、会社の事務所だった。事務所は鉄製の外階段を上った2階にある。用意周到に監視カメラの記録テープを抜き、スタンガンと睡眠剤のメラトニンを机の引き出しに忍ばせていたのは前に触れた。それだけでなく、Aは犯行を自殺に見せかけようとしていたフシもある。直径2センチもある頑丈な18メートルの麻縄ロープを用意し、それが2階の踊り場付近に置かれていた。遺体を事務所まで運び、ロープでつるそうとしたのだろう。そばには、B社長の靴がきれいに並べられていた。
しかし、この靴を巡っては、大きな疑問が残されている。前述したように、Aは事務所から飛び出したB社長を執拗(しつよう)に追いかけ、竹やぶで絞殺したとみられる。遺体発見時、うつぶせに倒れていたB社長は裸足だった。だが、素足の裏には傷どころか、ドロ一つ付いていない。つまり、B社長は裸足で逃げ出したのではなく、犯行後に靴を脱がされたわけだ。それが事務所前に置かれているのだ。いったい誰が運んだのか。昨年12月の公判で、そのことが焦点になった。
「踊り場の靴は、あなたがそろえて置いたのですか」
そう尋問する検事に対し、Aが平然と答えた。
「違います」
「それなら誰ですか。 現場に誰かいたということですか」
「分かりません。私以外、いないです」
Aがやっていないなら、彼以外の何者かが、遺体となったB社長から脱がした靴を事務所前まで運んだことになる。そこにも明らかに共犯者の足跡が見え隠れするのだ。07年2月に開かれた弁護側の最終弁論では検察官がこう述べて
いる。
「被害者が被告人との会話を録音するために渡されていたボイスレコーダーのスイッチが、被害に遭う直前まで入っていなかったことからすれば、被告人以外の第三者の関与も疑われるところ」――。
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