「ドラマのフジ」という「過去の栄光」を捨て切れず…“支配者”の退陣から丸1年、制作現場に大きな変化が
日枝氏支配下との変化
日枝氏支配下時代のドラマはフジ単独での制作が中心だった。「ドラマのフジ」という過去の栄光が捨てられなかったのが大きな理由ではないか。ただし、それでは視野狭窄に陥りやすく、失敗を招きやすい。
局の単独制作での典型的な失敗例は日枝氏支配下時代に企画された昨年の秋ドラマ(10月期)「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」だろう。1984年の東京・渋谷を再現する巨大セットを数千万円かけてつくり、キャストはオールスターでありながら、酷評にさらされた。視聴率的にも惨敗した。
1984年の時代相を知らないと楽しみにくかったから、50代半ば以下の人には観るのがきつかったのだろう。小演劇が題材だったので、演劇に無関心の人にも厳しかったはず。女性のダンサーが登場するシーンを批判する女性視聴者もいた。
これらの難点は事前に分かったはず。それなのに制作陣は疑問を抱かなかったようだ。視野狭窄にほかならない。ちなみにドラマ部門以外のフジ関係者、他局の制作者は第1回の放送が済んだ段階から辛辣な評価を下していた。
今のフジのドラマは視野狭窄になりにくくなっている。共同テレビと組んでいるだけではないからだ。北村匠海(28)が水産高校の教師に扮している月9「サバ缶、宇宙へ行く」は、オフィスクレッシェンドが演出面などで制作協力している。
同社はTBS「SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~」(2010年)などを成功させた。日枝氏支配下のころはフジとの縁が薄かった。
月9についてはフジにとって朗報があった。「ヤンドク!」までのスポンサーは花王、SUNTORY、エステー、フジパン、大和証券グループの5社だったが、「サバ缶――」からは日産自動車が加わり、6社体制になった。
もともと月9のスポンサーは6社体制だった。うち1社は人権侵害問題を受け、昨年1月に外れた。日産の新規参入は売り上げ面と信用面で極めて大きい。
もう1本の春ドラマはディーン・フジオカ(45)が主演中の木曜劇場「LOVED ONE」。こちらはAOI Pro.がやはり演出面で協力している。同社は河合優実(25)が主演したNHK「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(2023年)を制作した。家族愛をテーマにした同作品は評価が高く、ドラマ各賞を受賞した。今後、フジのドラマ制作に厚みが加わるはずだ。
最後にTBSについて書きたい。火曜ドラマ「時すでにおスシ!?」(火曜午後10時)のことである。主演が永作博美(55)であるのは極めて異例。言うまでもなく名優で、主演を務めることなど余裕だろうが、恋愛ドラマが中心の火曜ドラマは2020年以降、40代以上の主演女優がほとんど存在しなかったのだ。
これまでの火曜ドラマの主演はほとんどが20代から30代前半の女優。今回は作風も従来の作品とは大きく異なり、目下のところ恋愛色は薄い。鮨教室に集まる、年齢も立場も違う生徒たちと講師の人間模様が描かれている。
人生賛歌である。調べた限り、鮨教室がプライム帯のドラマの舞台になるのも初めて。火曜ドラマは7月期も40代女優の主演が決まっている。
3年前にマッチングアプリ会社が火曜ドラマのスポンサーから外れたことも作風の変化に関係しているのか。ただし、TBSらしいドラマではある。かつて同局は「冬の運動会」(1977年)や「野々村病院物語」(81年)などの人生賛歌を得意としていた。名作ぞろいだった。
個人視聴率は7日の第1回が3.7%(世帯5.9%)、14日の第2回が2.7%(世帯4.9%)と上々。「恋愛離れ」と言われる時代だから、多くの視聴者も人生賛歌を望んでいたのかも知れない。
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