【風、薫る】低すぎて心配される視聴率はこれから上がる…「わかりにくい」「暗い」で敬遠された朝ドラの誤算

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みなぎるようになった2人の「正のパワー」

 ところが、第3週「春一番のきざし」(4月13日~17日放送)から、2人を取り巻く状況はガラリと変わった。卯三郎の店で毎日働くようになったりんは、一時世話になった牧師の吉江善作(原田泰造)に、「娘のため、生きるため、なんでもしようと思って」と近況を伝えた。実際、前向きに働き、卯三郎に借りた辞書を使って英語の勉強もはじめた。表情もいつも笑顔で、朝視聴して元気になれる。

 前向きな点では直美も負けていない。吉江から聞かされた「生きるため、なんでも」というりんの決意が響いたようで、メアリーにもらった洋服を着て出かけ、一芝居打った。「鹿鳴館の華」と呼ばれた捨松(多部未華子)に、通訳の父が病に倒れたとウソをいって、メイドとして鹿鳴館で働かせてもらうことになるのだ。そしてアメリカ帰りの陸軍中尉、小日向栄介(藤原季節)に交際を申し込まれる。

 もちろん、今後の展開にも山があれば谷もあるだろう。しかし、『風、薫る』の場合、最初の2週が「谷」ばかりで、しかも、どういう経緯でヒロインの状況が「谷」に陥っているのかわかりにくい状況にあった。だから、最初のうち視聴率が低迷したのも当然だと思うが、NHKにとっては誤算だったのかもしれない。

 だが、この「谷」は2人のヒロインが、「生きるため、なんでも」という決意で前向きに進み、大きなものをつかんでいくための助走だったようだ。いまは2人が同じ東京で、生きてなにかを獲得するための「正のパワー」をみなぎらせており、朝に視聴して心地よい。

視聴率はどこまで上がるか

 最近の連続テレビ小説で視聴率がよかったのは、2025年上期の『あんぱん』だが、一貫して前向きなパワーが貫かれていた。ヒロインの朝田のぶ(今田美桜)の夫、柳井崇(北村匠海)のモデルであるやなせたかしの人生自体が成功譚なので、紆余曲折はあっても前向きな物語になるほかない。そのことがよく知られていたので、視聴者は安心して観ていられたと思う。

 一方、『風、薫る』はモデルになった2人がさほど有名とはいいがたく、展開がよく見えない。だから安心できないところに、最初の2週は暗いできごとや後ろ向きの話が盛りだくさんだったので、視聴者が引いてしまったのではないだろうか。だが、第3週以降の評判を聞いて視聴者は戻ると筆者はみている。

 前作『ばけばけ』も、『風、薫る』と同じ明治時代が舞台だったが、筆者はラフカディオ・ハーン(小泉八雲)と妻のセツというすばらしいモデルが活かされていないのに不満をいだいていた。さり気ない日常やそこにおける笑いが優先され、ハーンをモデルにしたレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)の日本観の変遷や、日本におけるキャリア、それを築く過程で深めていった家族愛などが、断片的にしか描かれないのが残念だった。

 その結果、セツをモデルにしたトキ(高石あかり)がヘブンを支え、彼の業績に貢献した物語も、希薄になってしまった。「さり気ない日常」が心地よかった、という視聴者がいるのは知っている。それを否定するつもりはないが、小泉八雲という題材の活かし方としては、疑問符が残り、もっと骨太に描ける題材だったのに、と思ってしまう。加えていえば、高石あかりがいつも、白い歯をむき出しにするのが気になった。明治の女性、とくに士族の女性にとって、人前で歯を見せるのははしたないことだった。あまり歯を見せないように、という指導がどうしてできなかったのか、と。

 その点、見上愛も上坂樹里もうまくやっている。だが、もちろん、歯の見せ方よりも、力強い生きざまのほうが、ドラマのパワーになり、視聴者に元気をあたえる。2人の演技も相まって、明日に希望が持てる展開になってきたので、視聴率がどこまで上がるか楽しみだ。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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