暴力問題で「伊勢ケ浜親方」に処分も…「悪いのは伯乃富士」という雰囲気への違和感 いまあえて角界版“令和の怪物”にエールを

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もう酒席には連れて行かないで

 私はそのころ、落合の活躍にジリジリしていた。メディアは「令和の怪物」と落合を囃し立てるが、

(おいおい、本当の令和の怪物はほかにいるぞ)

 と叫びたかったのだ。この時、大の里はデビュー2場所目、東幕下3枚目。落合同様、ひと場所での十両昇進も期待されたが、6勝1敗にとどまり、しかもこの場所は3勝3敗で最後の7番勝負に臨むという、かなり厳しい状況に追い込まれていた。なんとか勝ち越し、番付運の良さもあって十両昇進を決めたが、この時点では落合の勢いが上回り、「本当は大の里の方がすごいんだよ」とは言いにくい、言っても相手を納得させられない雰囲気で私は悔しい思いをかみしめるしかなかった。

 簡単に言えば、伯乃富士は目の上のタンコブのような力士で、全然好きではなかった。ところが、伯乃富士の取り組みを連日注目するうち、いつのまにか魅かれてしまう自分がいた。

 伯乃富士の相撲はハラハラする。最後までわからない。幕内では伯乃富士も簡単には勝たせてもらえない。土俵際に追い込まれる相撲も多かった。ところが、伯乃富士は、一瞬の変わり身で相手を土俵下に突き落とすような、逆転劇をしばしば演じた。最後の瞬間までわからない。

 次第に、私は「最後の瞬間までわからない」伯乃富士の相撲に胸を熱くするファンのひとりになっていた。

 大の里と対戦する時は当然大の里を応援するが、いつだって「嫌な予感」がする。実際、対戦成績は伯乃富士の3勝2敗。大の里が対戦成績で負け越しているのは、豊昇龍と阿武咲の二人だけだ。

 令和7年の7月場所に続いて9月場所でも4日目に大の里を破った。この場所、大の里は13勝2敗で優勝する。大の里は、優勝を決めた後の千秋楽で豊昇龍に敗れるまで、伯乃富士戦だけが唯一の黒星だった。

 そのような経緯もあって、私の中で伯乃富士はいまも「令和の怪物」。世間はいま横綱の座にある二人の“大豊時代”などと呼ぶが、まだ定着したとはいえない。これに安青錦が加わるのかどうか。

 私はむしろ、大伯時代が到来しないかと密かに期待している。181センチ、161キロの伯乃富士は、現代の関取の中では大きい方ではない。だが、かつて栃若時代を築いた二人の横綱、栃錦は178センチ、124キロ、若乃花は179センチ、105キロ。その身体でそれぞれ幕内最高優勝10回を果たし、横綱として一時代を築いた。三代目若乃花は180センチ、134キロで優勝5回を記録した。

 伯乃富士は身体的にはそうした先輩力士に負けていない。早く怪我を治し、今回の騒動からの葛藤をも乗り越え、才能を輝かせてほしい。そして伊勢ケ浜親方には、「もう伯乃富士は酒席に連れて行かないで」と、くれぐれもお願いしたい。

スポーツライター・小林信也

デイリー新潮編集部

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