天才ゆえの挫折と栄光「タイガー・ウッズ」が4度目の交通事故…2019年マスターズでの“奇跡の復活劇”を想う

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もう一度、復活を

 それほどの成功者がなぜ? と思うかも知れないが、この問題はもはやタイガーに限らない。巨額化するプロスポーツ・ビジネスの熱狂は、成功者たちに巨万の富をもたらし、従来以上の狂騒に巻き込み、道徳論では自らを制御できないほどの夢と重圧の真っただ中に飲み込まれている。周囲のサポートも得てその荒波をうまく乗りこなせる英雄もいれば、翻弄される英雄もいる。成功者をビジネスに利用するスポンサー企業は、その重圧や精神的なサポートまでは細かく配慮してくれないだろう。そして、資本家たちに翻弄されるスポーツ選手たちの大半が、強靭な精神力を培うかに見える一方で、科学とビジネスの入り混じった様々な“依存症”の罠に陥っている現実に気づく必要がある。

ゴルファーをはじめ野球選手たちも愛用する磁気ネックレスやブレスレットの類や、長距離ランナーが愛用する磁気テープなども、他力本願の依存症グッズの側面がある。知らず知らずのうちに現代のスポーツ選手は、自分の内面から生まれる強さを最優先にせず、外部からの力に頼ろうとする思考に飲み込まれているのだ。タイガーもその犠牲者のひとりと言えるかもしれない。

 巨額ビジネスゆえの過酷さ。光が当たる場所では羨望の眼差しを浴びる彼らの知られざる孤独。それがスポーツビジネスの熱狂がもたらす重大な弊害のひとつだと私たちは受け止める必要があるのではないだろうか。

 一方で、タイガーにはそうした弱さ、重圧を撥ね退ける、とてつもなく強大な潜在能力が秘められている。世界中が改めてそれを見せつけられたのが2019年のマスターズではなかったか。「すでに峠を越した」と見られていたタイガーが、マスターズでまた優勝を争うとは、夢にこそ描いても、現実になるとは誰が想像できただろう。

 初日、首位に4打差の2アンダーで滑り出したタイガーは、2日目4アンダーのスコアで首位に1打差の6位タイに迫る。3日目はさらに5アンダーと伸ばし、13アンダーで首位のF.モリナリに2打差(11アンダー)とし、T.フィナウと並んで2位タイに上がった。そしてファイナル・ラウンド。2位に2打差をつけて最終18番ホールのティー・グラウンドに上がったタイガーは、冷静に戦略を立て、ここで無理にバーディーを奪い、ギャラリーを沸かせようなどという色気は一切捨てて、確実にボギーで上がるショットを展開した。パーを取れなくても、ボギーなら逃げ切れる。優勝が決まる。ゴルフの現実を誰よりもわかっているタイガーの、冷徹な判断だった。

 大きく口を開けるグリーン手前のバンカーを丹念に避けて、リスクのない位置にティーショットを置くと、2打目でグリーンに乗せた。バンカーの心配を一切しなくて済むコースを選んでボールを運んだのだ。そして、2度のパターで沈めると両手を高く空に突き上げ、雄叫びを上げた。

 もう二度とないだろうと思われた「タイガー復活優勝」を天下に見せつけた瞬間だった。

 それは、マスターズで4度目の優勝を飾った2005年から14年目。最後にメジャー大会を制覇した2008年全米オープンから数えても11年ぶりの快挙だった。

 すでに50歳になったタイガーに過大な期待は禁物だが、数々の奇跡を演じてきたタイガーである。もう一度、彼に相応しい人生の舞台に「復活」することを期待したい。

スポーツライター・小林信也

デイリー新潮編集部

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