なぜ田久保眞紀被告は卒業証書を出さなくても許されるのか「偽造文書なき文書偽造裁判」の行方を元テレビ朝日法務部長が解説
「卒業証書」の現物なしでも立証可能
では、「弁護士に預けさえすれば何でも捜査機関の手が届かなくなるのか」。この点にはなお議論の余地があるため、実際に捜査機関が田久保被告の卒業証書を押収した場合、それが違法となるかは断言できない。
だからこそ今回、検察側はこの論争を避ける意味も込めて、「偽造文書なしで文書偽造の罪を問う」という戦略を選んだのだろう。では、このまま卒業証書は出てこないまま裁判は終わるのか。
実は、裁判の進行上必要であれば、裁判所が自ら卒業証書を差し押さえたり、田久保被告側に提出を命じたりすることも可能だ。もっとも、その場合でも弁護側は「押収拒絶権」を主張できる。争いを覚悟してまで裁判所が提出命令を出すかは、今後の審理の展開次第だろう。
では二つ目の疑問、検察側は「卒業証書」の現物なしで有罪を立証できるのか。答えはイエスだ。ただし、慎重な証拠の積み重ねが必要となる。
直接証拠ではなく「間接証拠」で犯罪を立証すること自体は珍しくない。検察側は、田久保氏が東洋大学を卒業しておらず、取得単位数からして卒業したと勘違いする余地も乏しいこと、さらに学長名などが入った印鑑をネットで発注していたことなどの事情を丁寧に積み上げていくことになるだろう。
弁護側が有利と考えれば「卒業証書」を出す展開も
ただし今回の事件には特殊な点が一つある。それは、直接証拠が弁護士事務所の金庫にあるらしいという点だ。通常、間接証拠による立証は、凶器が捨てられるなど「直接証拠がもはや存在しない事件」で用いられる。だが本件では、直接証拠となりうる卒業証書の実物は、捜査機関の手元にはないものの、弁護側には存在している可能性が高い。
となれば、弁護側はこんな戦略も取りうる。まず検察側に間接証拠をできるだけ出させる。そのうえで、弁護側が握る「卒業証書」と照らし合わせ、検察側の主張に現物と食い違う点がないかを探る。そして、検察側の主張を崩せると判断した場合に限って、弁護側から卒業証書の実物を証拠提出し、不備を突く――という流れだ。
逆に有利な展開にならないなら、卒業証書は金庫に入れたままにしておく。その場合、現物を見ていない検察側は、暗闇の中を手探りするような立証を迫られる場面もありうる。
もっとも、日本の刑事裁判では、直接証拠がなくても「常識に照らして合理的な疑問が残らない程度」の立証ができれば有罪認定は可能だ。
検察側がこの立証を「卒業証書なし」でやり切れるのか。異例の裁判の行方を、予断を持たず注視したい。
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