「炎鵬」奇跡の関取復帰 「相撲どころか歩くことさえ……」脊髄損傷の大ケガを跳ね返した“不屈の相撲人生”

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無事を祈りながら

 何しろ、“脊髄損傷”と診断された炎鵬のケガは「相撲どころか、将来歩けるかどうかもわからない」と案じられるほど深刻な首のケガ。それまで力士・炎鵬を応援してきた近親者、後援者でさえ大半が「引退してほしい」と懇願するほど重い症状だった。休場している間、首に幅の広いコルセットを巻いて暮らす姿を見れば、とてもまた相撲ができるとは想像できにくかった。

 テレビ金沢のニュースで母・由美子さんが語っている。

「どこの病院に行っても、周りの人が無理だと言っても、あの子は諦めず挑戦しようと前を向いていました。怖かったです。絶対にもう一度、関取に戻るというあの子の夢がかなうことを祈りながらも、復帰してからも勝つことよりケガが悪化しないことを祈っていましたし、今日が最後になるかもという思いは消えませんでした」

 金沢学院大学時代の恩師・大澤恵介総監督も、十両昇進の知らせを受けて感激しながら、石川テレビの取材に答えて告白している。

「ケガがケガだったので、もう難しいだろうなあと思っていました。でも炎鵬が『復帰に向けてがんばります』って言うんで、いやいやこの後の人生の方が大事なんだから無理すんなって言ったんですけど、『僕は絶対復活します』って」

 炎鵬は諦めなかった。一体、何が炎鵬をそこまで突き動かしたのか。2020年正月に放送された石川テレビの新春対談で炎鵬はこう語っている。

「僕はとにかく負けず嫌いで、負けることがすごく大嫌いで、格好悪いというか、負けたくないという気持ちは誰よりも昔から強かったかなあと思います」

 自分にしかできない相撲を見せる。167.3センチ、106.2キロの小さな身体で堂々と力強い相撲で勝てることを中学、高校、大学、そしてプロの土俵で証明し続けてきた。

 炎鵬の相撲は唯一無二だ。小兵でありながら、姑息ではない。素早い動き、左右への揺さぶりで相手を崩す。巨漢力士を一瞬の廻しさばきで手品のように反転させて投げ飛ばしてしまう。その技術の高さ、相撲勘の見事さは他に類を見ない。

(自分だけが知る感覚、自分だけが演じられる相撲をまだ見せきっていない)

 そんな渇望が炎鵬の身体の奥にくすぶっていたのではないか。これからの炎鵬の相撲、一番一番を、無事を祈りながら楽しみに見たい。

スポーツライター・小林信也

デイリー新潮編集部

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