元カープのエースが「大赤字」の米農家に転身したワケ 神奈川から鳥取に移住 「野球コーチとの共通点は…」
うまい米を作る秘訣
川口氏がうまい米を作る秘訣(ひけつ)として挙げるのが「稲木(いなぎ)干し」である。
「いわゆる天日干しのことです。木を組んで稲木を作り、そこに刈り取った稲を一房ずつ縛ってくくり付け、太陽で干す。乾燥機でなく、自然の力を使うと味が数段アップして、抜群にうまい米ができます。結局のところ、“おいしい米が食いたい”という思いが原動力になっているのです。稲木干しは7~8人のボランティアを集めても3日ほどかかる大がかりな作業となり、収穫した全ての米にはできません。それでも今後もこだわっていきたいと思っています」
収穫後には「秋起こし」が待っている。次の年に向けて土を新鮮な状態に保つため、11月から12月にかけて田んぼを耕し、空気にさらす作業をいう。これが終われば、その年の作業は完了し、「プロ野球と同じで、米作りのシーズンオフ」に入るそうだ。
農業の無限の可能性
農業の面白さに魅了されている川口氏だが、一昨年から続く米価格の高騰についてはこんな感想を漏らす。
「これまでの価格が安過ぎたと思っています。“米が高い”とよく言われますが、労力やコストを知る私からすれば、決してそんなふうには思えない。肥料や燃料費が高騰している中、私と同じくほとんど儲けのない農家も珍しくありません。米高騰の原因とされる国の減反政策についても、果たしてどこまで農家側に立った生産調整をしてきたのか。自治体の中には『おこめ券』を配布するところもありますが、もう少し農家に寄り添った政策を期待したいですね」
その一方で、農業に無限の可能性を感じてもいるという。
「私のように個人ではなく、5~6人が集まって農業法人を立ち上げれば、補助金も活用できますし、儲けを生み出すことは十分可能です。定年退職後に農業を始めたいという人は少なくないと聞きます。でも、尻込みする必要はありません。先に話した耕作放棄地の例のように、参入ハードルはそれほど高くはない。天候に左右される面はありますが、休みたければ休めばいいし、正味の実働期間は5月中旬から5カ月程度です」
川口氏も米作りのほか、プロ野球解説の仕事や地元の高校球児への指導など“三足のわらじ”を履いている。
「多くの人に一度は“収穫の喜び”を味わってほしいと思っています。作ったお米が自分だけでなく、周囲の人も笑顔にする。こんな幸せはありません。農作業は言ってみれば、一日中、泥遊びをしているようなものです。その分、毎日驚きと発見があり、ボケる暇もなくなりますよ」
自慢の米を手に、広島へ“凱旋帰郷”する日も近い。
[5/5ページ]

