菊池桃子は「卒業」がトップ人気ではない? 中森明菜は「スローモーション」が2番手に 80年代アイドル「再評価」楽曲事情
若松宗雄(80年代の松田聖子のプロデューサー)の証言
聖子のサブスクでのトップ20を見ると、3位「SWEET MEMORIES」、8位「瑠璃色の地球」、14位「制服」、18位「抱いて…」と、シングルA面以外の楽曲が4作もランク・イン。聖子の場合は、80年代だけでも30万枚を超えるヒット・シングルが21作もあるのだ。これを押しのけるほど人気のカップリング曲やアルバム曲が、21位の「蒼いフォトグラフ」を含めると5曲もあるという事実から、聖子や当時彼女の楽曲を手がけた若松宗雄プロデューサーがただならぬ存在だったと、改めて気づかされる。
その中で最上位となったのが、83年のシングル「ガラスの林檎」のB面で、のちに両A面扱いとなった「SWEET MEMORIES」。2コーラス目が英語から始まるジャジーなナンバーで、昭和アイドル・ソングとしてはかなり意外性のある作品だ。当時、とあるバーでペンギンが歌うというアニメーションが施されたサントリー「CANビール」のCM曲に起用されていたが、これに有線放送で火がつき、「ガラスの林檎」の順位が各種チャートで下がったころに両A面シングルとしてあらためて発売。
その結果、レコード売り上げが再浮上し異例のロングセールスを経て、ついには発売1週目と発売13週目にオリコン1位を獲得したことで、80年代の聖子では最大となる累計85万枚以上を売り上げることとなった。その後「SWEET MEMORIES」は、99年の『NHK紅白歌合戦』で歌唱されたり、別のCMに起用されたりしたこともあり、今や70組以上のアーティストにカバーされるほどのスタンダード曲に成長した。
ちなみに、最初からシングルA面だった「ガラスの林檎」は今回のランキングでは19位だが、こちらは崇高な雰囲気のスロー・バラード。つまり、シングル「ガラスの林檎/SWEET MEMORIES」は2曲とも、かなり挑戦的な作品だったと言えるだろう。
「ヒット曲にもっとも必要なのは、“意外性”なんです。だから、『それまでの聖子なら歌わないんじゃないか』という思いから、途中で大瀧詠一さんや細野晴臣さんにも曲を依頼するようになりました。聖子と2人を組み合わせることで、これまでにない色合いを出して、ほかの歌手とは異なる路線も打ち出しました。『ガラスの林檎』は神聖なイメージで、私も大好きですね。細野さんのメロディと聖子の声は、意外なようですが、ものすごく合っていると思います」(若松)
まこりん(中森明菜を愛する昭和歌謡愛好家)の証言
明菜の方は、86年のシングルとなった歌謡ロックの「DESIRE -情熱-」がサブスク1位となった。「DESIRE」の1位は、若い世代もノリノリで歌っているのをよく見かけるから順当と言えるだろうが、サブスク2位は、なんと82年のデビュー曲「スローモーション」。一般に、サブスクで聴かれることの多いアーティスト別の入門編プレイリストやベスト・アルバムではデビュー曲が1曲目に選ばれることが多いためより人気が出やすい。とはいえ、明菜の場合は累計30万枚を超えるシングルが23作もあり、レコード売り上げがオリコン最高30位で累計約17.5万枚だった「スローモーション」が、それらを差しおいてサブスク2位というのは大健闘と言えるだろう。そう伝えると、明菜に関する深い洞察力が評判である昭和歌謡愛好家のまこりんは、むしろこの順位に納得して答えた。
「最近『スローモーション』をよく聴き直して、こんな素晴らしい曲だったんだと、あらためて思っていたところなんです。こんな完成度の高いアイドルのデビュー曲ってそうそうないんじゃないかなと。アイドルのデビュー曲って、まだコンセプトが定まっていないなと感じるものが多い気がするんですよ。一方『スローモーション』にはその迷いが一切ない。アイドルの1曲目、それは『出逢い』であるとして、それだけを提示しています。この歌って、明確に〝ボーイ・ミーツ・ガール〟の瞬間を切り取った歌で、余計なことは書いていないんですよ」(まこりん)
本作はストリーミングのみならず、カラオケでも人気で、令和6年のカラオケ・ランキング(JOYSOUND調べ)でも昭和楽曲の中で11位と大健闘している。
「『スローモーション』は、歌詞の中に時代性を感じる小道具が入っていないので、令和の今の若い子が聞いても歌ってもすんなり感情移入できる作りになっていると思います。女の子が砂浜を散歩していて、でもちょっと淋しいなと思ったら、向こうから同世代くらいの男の子が犬を連れてやってきて、素敵だなと思って話しかけて、いい雰囲気になって、それで『この後お茶でも一緒にどうですか』とかなんとかで、ふたりで海辺を去ってゆく。老若男女どの世代でも、これがわからないって人は多分いないと思います。『スローモーション』っていつの時代でも通じる普遍性の高い『出逢い』の歌なんですよ。作詞した来生えつこは天才じゃないかと思うほどです」(まこりん)
本シングルは最高30位と同年デビューのアイドルの中ではまずまずの結果ながら、その2ヵ月後のファースト・アルバム『プロローグ』がオリコン5位まで昇り詰めたというのは、彼女の才能に早くから注目したリスナーが多かったということだろうか。
「そうだと思います。この『スローモーション』のクオリティなら、そりゃアルバムも気になってしまいますよ。だから、もし『少女A』がなかったとしても、中森明菜はいずれブレイクしたのではと個人的には思っています」(まこりん)
このように、80年代アイドルの楽曲が令和になって、新たに評価され続けていることはとても興味深いことで、しかも早見優や松本伊代は、その新たに出たヒット曲を自身のライブでも積極的にセットリストに取り込むことで、若い世代や海外から来た観客も増えており、とても良い時代になったなあとつくづく実感する。
ヒット曲を共有すると、誰かの喜びは2倍に、また誰かの淋しさは1/2になり、そういった考えがひいては、世界平和につながればいいなと心から願っている。
【INFORMATION】
『時代を超える昭和アイドル・ヒット80年代編 サブスク・チャートと当事者秘話で新発見』
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〈掲載アーティスト(証言者)〉※( )がない場合は本人が証言
浅香唯、岩崎良美、Wink(及川眠子:作詞家)、岡田有希子(國吉美織:ディレクター、ミュージシャン)、河合奈保子(ソワレ:歌手、イベント・プロデューサー)/ 衛藤邦夫(ディレクター)、菊池桃子、酒井法子、チェッカーズ(鶴久政治:元チェッカーズ)/ 売野雅勇:作詞家)、中森明菜(まこりん:昭和歌謡愛好家)、早見優、松田聖子(若松宗雄:プロデューサー)、松本伊代(50音順)
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