「ばけばけ」熊本編で“急失速”した理由 成長しないヒロインと、大事なことを話せない夫婦の違和感

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テーマはウソ

 第1回からウソが描かれた。トキの出自である。以後もウソの描写が続いた。松野家は銀二郎に対し、莫大な借金があることを隠すというウソを吐いた。

 そもそも働き手を得るための結婚だった。このウソなどが理由になり、銀二郎は第16回(昨年10月20日)に出奔する。良くも悪くも家のことを第一に考えてしまう松野家の悪い部分が出た。

 ヘブンはウソが大嫌いである。ヘブンもトキから借金のことと雨清水家との関係を知らされてなかった。2人は結婚間近だったが、このウソにより、破談になってしまいそうになる。取りなしたのはヘブンの永遠の友人・錦織友一(吉沢亮)だった。第69回(1月8日)だった。

 松江編のクライマックスは錦織がウソを告白。第95回(2月13日)である。錦織は帝大を出ていないし、中学の英語教師の資格すらなかった。それを生徒の前で告白し、校長にもならなかったが、理由は誰にも明かしていない。最後まで分からなかった。これが特に良かった。視聴者の数だけ答えがある形にした。

 ウソそのものについては解答を暗示した。熊本編に入ってすぐの焼き網騒動である。家族の誰かが焼き網を隠したか盗んだと皆が疑心暗鬼になったため、丈と正木がウソを吐き、ありもしない盗難をデッチ上げ、1人残らず潔白という方向に導いた。

 ヘブンは「私、ウソ嫌い。でも2人、良いウソ。素晴らしい!」と叫んだ。ときにはウソも必要。何事にも寛容であるべきだということを伝えたかったのだろう。

 朝ドラには独特の様式がある。今回も踏襲された。まず朝ドラほど放送中に制作陣が取材に答えるドラマはない。視聴者が作品に没入しようとしているにもかかわらず、舞台裏を見せてしまう。勿体ない。映画の上映をぶった切って観客に説明を始める監督はいない。

 またドラマには視聴者の数だけ感想や意見があるのだが、それを自分たちの意図で都合よく誘導してしまう制作者もいる。作品だけで勝負しなくてはならない制作者として危うくないだろうか。

 この様式が採り入れられたのは、「ちむどんどん」(2022年度前期)以降のことと記憶する。批判が渦巻いた作品だ。

 批判される前に発信してしまいたいようだ。その気持ちは分かる。だが、賞賛を得るためには視聴者の声に耳を傾け、より良いドラマをつくるしかないのではないか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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