「狩野英孝」はなぜ、中高生の「好きな芸人」1位に選ばれたのか 「攻撃性のない笑い」を求める今の若者に刺さる存在

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ノイズが笑いに

 しかし、YouTubeが普及して、動画配信の時代に入ると、彼の「ズレ」は欠点ではなくなった。むしろ、編集されすぎていない素のキャラクターが伝わる場所でこそ、狩野英孝の魅力が出ていた。

 今の中高生は、芸人を単に「テレビに出るタレント」として認識しているわけではない。YouTube、ショート動画、切り抜き、SNS上の話題を経由して、その人物を断片的かつ反復的に摂取している。その環境では、ネタやトークの面白さだけでなく、「見ていると何かが起きそう」「毎回少しずつ違う顔を見せてくれる」「失敗しても嫌味にならない」といった資質こそが強い武器になる。狩野はまさにそこに適合する存在だった。

 彼のゲーム実況動画は、ゲームが上手いから見られているのではない。上手くいかなさ、読み違い、場違いなテンション、予測不能な言い間違いなど、本来ならノイズとなるような要素自体が笑いにつながっているから強いのである。

 さらに重要なのは、狩野英孝の笑いが、誰かを傷つけたり排除したりする方向に向かいにくいことである。今の若い世代は、攻撃性や圧力を含んだ笑いに距離を取る傾向がある。

 その点、狩野は絶妙である。何を言い出すかわからない危なっかしさはあるが、他人を傷つけることはなく、自分が転んで結果的に笑いを生む場面が多い。だからこそ、見ていてスリルがあるのに、後味が悪くなりにくい。安全だが退屈ではない笑いを提供する狩野は、今の時代には貴重な存在だ。

 人物としての狩野英孝の本質は、完成された芸人ではなく、永遠に未完成なスターであるという点にある。普通、芸人は年齢を重ねるにつれて技術が洗練され、振る舞いが安定し、笑いの取り方が予測可能になっていく。だが狩野は、ベテランになってもなお「次に何をするかわからない」という良い意味での危うさを保っている。

 狩野が中高生に支持されているのは、彼が若者に寄せたことをやっているからではない。メディア環境が彼に有利なように変わっていった結果、多くの若者が彼の面白さを受け取る土壌ができたからなのだ。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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