妻を子宮がんで失って3年 「不倫じゃないのに…」51歳夫が再婚を考えた相手を娘たちが“拒否”するワケ

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言いかけてやめた言葉

 そんなとき海老名さんから、また海外へ行くことになったと連絡があった。待ち合わせて飲みに行き、つい美千惠さんの話をすると、彼は「オレも聞いたよ。再発したって」と言われて驚いた。海老名さんが「また海外に行く」となにげなく連絡したら、美千惠さんが「再発しちゃって」と打ち明けたのだという。

「オレより早く海老名が知っていたのか、とさらに落ち込んで。そのことも言ったら、『美千惠って昔からそうじゃなかった? 肝心なことは言わないところがあったよ』と。『おまえのことが大事だから言えなかったんだろう』と言われたけど納得はできなかった。おまえたちさ……と言いかけて、やっぱりやめました。海老名を疑っては申し訳ないと思ったから」

 釈然としなくても、人間には飲み込まなければいけないこともあると、康太さんはつぶやいた。娘はふたりともかわいい。当然、自分の子だと信じてきた。それでいいと思っていたが、美千惠さんは自分のことをそれほど信じてはいなかったのだろうかとふと体の中を風が通り抜けていくような気持ちになった。

康太さんが「好きになってしまった」女性

 妻が病気になって8年目、再々発がわかった。治療をしながらも、それが決して明るい未来を示すものではないことは美千惠さんも康太さんもわかっていた。それでも美千惠さんはがんばった。なるべく日常生活を「普通に」過ごそうとしているように見えたから、康太さんもその心に寄り添った。

 具合が悪いときは家のベッドで過ごす。妻のベッドはリビングに移動し、いつでも家族が話しかけられるようにした。いつしか妻も在宅のまま最期まで過ごしたいと口にするようになった。看護師や医師、さらにヘルパーさんなどが出入りし、娘たちには落ち着かない環境だったかもしれない。

「そんなときに僕は、出入りしている福祉関係の女性を好きになってしまったんです。もちろん告白なんかしていません。長い間、相談相手になってくれました。彼女としては職務の一環です。ただ、僕の気持ちを彼女はわかってくれていたのではないかと思う」

 あるとき今日は気分がいいと起き上がっていた妻が、「ねえ、万里子さんはどう?」と彼に言ったことがある。まさに彼が好きになっている女性のことだったので、ドキッとしながら「何が」と言ったら「あなたの気持ちはわかってる。私はいいと思うよ」とニヤッと笑った。

妻の逝去後に…

 再々発から半年後、妻は容態が急変、病院に運ばれたが数日後に亡くなった。半年間、康太さんはすべてを犠牲にしながら妻の世話に明け暮れていたから、寂しさと同時に「解放された」感覚もあったと正直に言った。妻を失うつらさと、解放感は別のものだと彼は小声でつぶやいた。

 それから1年後、彼は偶然、万里子さんと再会した。自身が会社の健康診断でひっかかり、再検査を受けに行った病院でばったり会ったのだ。万里子さんはその病院に勤務していた。

「彼女から声をかけてくれたんです。その節はどうもと挨拶をし、これから帰るという彼女と一緒に病院を出て、近くの喫茶店でお茶をしました。彼女は終末期の訪問看護師だったのですが、今は病院勤務になったそう。訪問看護師としての最後の患者が美千惠だった、印象的な患者さんでしたと言ってくれて。美千惠が『万里子さん、いいと思うよ』と言っていたことを思い出し、目の前の彼女のことを僕はやはり本気で好きだと実感しました」

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