「人はキスをするとき頭を右に傾ける」は本当か? 165人に聞いてみた結果

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時代の違いもあるのではないか

 論文にはなっていない研究だが、越智教授の研究室で検証された内容の一例を、教授にあげてもらうと、

「ある大学院生の研究ですが――。男女が並んで歩く時に、男の人が女の人の右側を歩くことが多いと言われています。これは進化の観点から見ると、男性は右手が空いていたほうが戦いやすかったからです。男性が自分の左側にいる女性にキスをしようとすると、頭を右に傾けることになる。そういう仮説を立てて、実際に町に出て、男女のカップルがどのような位置関係で歩いているかを観察する。また曲の歌詞に『あなたのいない右側に』といったフレーズがあったりします。そこで歌詞データベースを使って恋愛ソングを解析。時代ごとに男女が左右どちらを歩いていたかを検証して、キスをするときの頭の傾きとの関連を調べています」

 キスを顔だけでするものではない。キスをするときに腕は相手の肩を抱いているのか、腰を抱いているのかによっても、キスする時の顔の傾け方に影響が出るかもしれない。そういったことも研究されているという。

「キスをするときの動作に関する研究は世界的にもまだないので、うちの大学院生の研究では、実際にカップルにキスしてもらってデータを集めています。その際、心拍計なども使って、カップルのさまざまなデータも一緒に取っています」(同)

 まだまだ解明されていないことも多いのだ。

「現代の日本では横書きは左から右へと書きますが、戦前は右から左へと書くこともあった。運動プログラミング仮説(欧米では左から右へ言語を書くので、頭が右へ傾きやすくなり、逆に右から左へと書くアラビア語などを使う人々は頭が左へ傾きやすくなるという仮説)に従えば、現在と昔とで違いがあってもいいはずです。実際のところどうなのか。そもそも、戦前の恋人同士がどのようにキスをしていたのかは、史料が少なくなかなかわからない」(同)

春画の“口吸い”

 時代ごとのキスの仕方の違いといえば、日本には春画がある。江戸時代のキスについて研究する際の参考になりそうなものだが――。

「江戸時代には“口吸い”という言葉がありました。春画にもキスシーンがあるのですが、どうもキスの位置づけが西洋とは違うみたいなんです。普通の庶民が『愛している』という気持ちを表現するためにキスすることはなかった可能性があります。法政大学には日本史や文学を研究している先生方もいるので、そのあたりのことも協力してもらいながら研究してみるのはどうかなと思っています」(同)

 では、越智教授自身は「右に傾ける」原因について、どの説を支持しているのか。

「私は進化論的なメカニズムの考え方を取り入れた仮説に説得力があると思っています。この仮説であれば、絵やポートレート写真でもなぜ左向きの人物が多いのかなど、いろんなことが説明できます。

 こうした研究を学会で発表すると、やはり無茶苦茶ウケるんです。帰りがけには皆さん、この話題になる。いろいろと議論になって、いろんな分野の人がああだこうだと言い合えるのが、学問の醍醐味です。重箱の隅をつつく研究では、こうはいきませんから」

 2025年10月には一般向けの科学イベントでも研究成果を発表して好評を得た。

「まだまだ詰め切れていない研究課題も多い。あと1,2年は研究室のみんなで検討してくつもりです。心理学ばかりではなく、進化学や動物行動学、それに歴史学や文学など、いろんな知見や研究を集めて、キス問題に決着をつけたいですね」(同)

 まさに、たかがキス、されどキス。その研究は奥深い。前編【“キスの中身”でも違いが… 人がキスをするとき「頭を右に傾ける」ワケ】では、海外の学者による仮説を紹介している。

デイリー新潮編集部

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