“キスの中身”でも違いが… 人がキスをするとき「頭を右に傾ける」ワケ
ロマンティックなキス
先行の研究は2003年に、伝統ある英科学雑誌「ネイチャー」に掲載された論文から始まった。
「空港や公園など公共の場所でキスをしているカップルを観察していると、多くの人が顔を右に傾けている。そこでデータを取ってみることで、人はキスをするときに頭を右に傾けるバイアス(傾向)があるということが発見されたんです」(同)
その後、家族内のキスや初対面の軽いキスでは、頭を右に傾けるバイアス(右側バイアス)が必ずしも見られないこともわかってきた。どうもロマンティックな(甘美な情感のこもった)キスの場合に、右側バイアスが見いだされるようなのだ。
さまざまな仮説
では、なぜ頭を右に傾けることが多いのか。さまざまな研究者が仮説を唱えており、次のようにまとめられる。
1.利き手仮説――右利きの人が多いから右頭を傾けやすいという仮説。ただし、なぜ右利きの人がキスをするときに頭を右に傾けるのかについての説明が明確ではない。
2.魅力度仮説(進化心理学的な仮説)――人間の顔は右側よりも左側の方が魅力的だと認識されることが多い(これも大きな研究対象とされているのだが、まだ詳細は解明されていない)。右に顔を傾けると自分の顔の左側を相手に見せる格好になるので、相手から魅力的だと思われやすい。そうしたカップルはお互いの関係性を深化させやすく、繁殖する可能性が高かった。つまり子孫を残しやすかったために、長い時間をかけて、右側バイアスが形成されたのではないか。
3.運動プログラミング仮説――西欧人と異なり、イスラエル人とパレスチナ人はキスをするときに頭を左に傾けることが多い、という研究結果がある。イスラエル人、パレスチナ人ともに右利きが多いため、利き手が要因とはならない。ここで注目されるのは、ヘブライ語とアラビア語の言語表記法。いずれの言語も右から左に書かれる。この言語記述の習慣が頭の動きの運動パターンを形成して、キスの時も頭を左に回転させるのではないか。
4.メディアを通しての学習仮説――映画やドラマなどのキスシーンには何らかの理由で、右側バイアスが多く、それを視聴する側にも右側バイアスが生じたのではないか。ただし、この仮説についても実証的なデータを用いた研究はまだ発表されていない。
5.深いキスをするときのみ右側バイアスが生じる説――ロマンティックなキスは、家族とのキスなどと比べて、より唇を密着させることが多い。ソフトなキスは正面向きでもできるが、深いキスは鼻が邪魔になる。ロマンティックなキスの場合のみ、右側バイアスが顕在化するのではないか。
ただ、これらの仮説は海外の学者によるものだ。挨拶の代わりにキスをする習慣がなく、公共の場でキスをするカップルの少ない日本でも当てはまるとは限らない。後編【「人はキスをするとき頭を右に傾ける」は本当か? 165人に聞いてみた結果】では、越智教授が実際に行った聞き取り調査の結果を紹介する。
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