東京ドームはガラガラ、4割弱しか開催を知らない有り様…「WBC」第1回大会のあまりに残念だった開幕時を振り返る
奇跡を呼び込んだ? 王の叫びと、イチローの腕時計
実際、日本代表チームも、アメリカvsメキシコの試合日は非番さながら。各選手が食事や観光などをする中、イチローはロサンゼルスでショッピング。ふと時計店で「幸運を呼ぶ」と書かれた有名メーカーの腕時計の限定モデルに目を留めた。その額、数百万円。現役期は「お金があるなら、自分に投資すべき」が口癖だったイチローは、トレーニング機器やマッサージ関連には高額を費やしたが、それ以外の品については購入を控えるタイプだった。しかし、この時は、思い切って購入。「自分でも普段と違うことをしなければ、流れは良くならない」と思ったという。
一方、王監督は、日本のマスコミ関係者と中華料理屋で食事会を開いた。当初から予定されていたもので、「アメリカを飲もう」とバドワイザーが用意された。食事が進む中、トイレから帰って来た記者が言った。
「メキシコがリードしています」
同店にはスポーツバーが併設されており、アメリカvsメキシコ戦が生中継されていたのだ。しかも、“あの”ボブ審判が1塁塁審を務めていたが、またも彼の手による誤審が発生したのである。0対0の3回、メキシコ側の大飛球が右翼ポールを直撃。ルール上はホームランのはずだが、ボブ1塁塁審は二塁打とコールしたのだ。明らかな誤審に、前日、ディズニーランドで遊んだ穏健さはどこへやら、メキシコ代表は燃えに燃え、直後にタイムリーを放ったのだった。
そこからは「俺は怖くて見られない」とする王監督の代わりに、記者が代わる代わるスポーツバーを行き来し、戦況を報告。メキシコがリードしたまま9回に入り、アメリカの攻撃となるが、メキシコが四球を出した。記者が報告すると、王監督は怒った。
「だから四球は駄目だって、あれほど言っているだろ!」
この時の王監督の様子は、媒体でこう報じられている。
〈完全に試合に入り込んでいた。空気が張り詰める〉(読売新聞。2023年3月24日付・夕刊)
その後、スポーツバーに行った記者が帰って来ない。もう1人の記者が「見てきましょう」と立ち上がろうとした。その瞬間だった。
〈王監督の野太い声が響いた。
「立つな!」「(試合の)流れが変わる」〉(同紙)
数十秒後、「メキシコが勝ちました!」と記者が駆け込んで来た。
イチローも、腕時計を買ったロサンゼルスからの帰りにそれを知った。王監督は直後、日本からの娘の電話に「涙が出た」と報告。中華料理屋では最後に、おみくじ入りのお菓子「フォーチュンクッキー」が出された。王が手にしたクッキーには、以下の文言が書かれていた。
「Your perspective will shift」(流れは変わります)
王監督はいみじくも、こう呟いたとされる。
「正直者には神が宿ると信じたいね」
以降は知られるところだろう。準決勝進出となった日本は、大会で2連敗し3度目の対戦となった韓国を下し、続く決勝でキューバを下し世界一に。シャンパンファイトで王監督は、代表選手たちに、こう叫んだ。
「諸君は素晴らしい! 今日は思いっ切りやろうぜぃ!」
王の実兄である王鉄城は、当時、各媒体に、驚きを伝えている。
「弟は本当に真面目な人間なんです。それが『やろうぜぃ!』って……。あんなにはしゃいだ口ぶりを聞くのは初めてでした」
決勝戦の平均視聴率は43.4%を叩き出し、翌22日(日本時間)の夜、日本代表は帰国。待っていたのは出国時とは打って変わった、1000人以上のファンと、その歓待の声であった。
「おめでとう!」「よく頑張った!」「ありがとう!」etc.……。
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