河合優実、永野芽郁、広瀬すず…多感な世代の微妙な揺らぎを描く「卒業式映画」5選【早春の映画案内】

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今こそ別れめ いざさらば

〇「二十四の瞳」(1954年)

 卒業式で「仰げば尊し」が歌われなくなって久しい。教師を敬うという意味の歌詞が、今はそぐわないなどが理由のようだ。映画の中で歌われている作品を探してみると、この名作の中で聞くことができた。

 タイトルバックに「仰げば尊し」が流れ、昭和3年の4月、小豆島の分教場に大石先生(高峰秀子)が赴任してくる。12人の生徒たちの心をたちまち掴み、満開の桜の下で一列になって「汽車遊び」をする様子が美しい。

 生徒たちは5年生になると本村の小学校に通う。中には、生活苦のために学校をやめたり、病気になったりした子もいるが、大石先生はいつも温かく寄り添う。

 やがて、卒業式の日がきた。生徒たちは木造校舎の前に並び、オルガン伴奏で「仰げば尊し」を歌う。皆泣きながら、この歌を大石先生のために歌っていることがわかる。大石先生も泣いている、この子たちが辿る運命を悲しんでいるかのように。男の子5人のうち3人は戦死し1人は失明する。

 作家の長部日出雄は、高峰の卓越した演技をこう評価している。

「本当に教室のそこにいるかのように体全体でなりきった大石先生は、日本人の胸にいつまでも生き続ける『永遠の教師』といっても過言ではあるまい」(長部日出雄『天才監督 木下惠介』論創社)

 高峰の下には多くの教師から手紙が届いたという。どれも「教師をやめようかと悩んでいたが、この映画を観て続ける決心をした」と書かれていた(高峰秀子『わたしの渡世日記』文春文庫)。

 卒業式の日に「仰げば尊し」を捧げたいと思う教師は、確かにいたのだ。

答辞に込められた思い

〇「ラストレター」(2020年)

「Love Letter」(1995年)と同じく、手紙が重要なモチーフとなる岩井俊二監督作品だ。手紙は卒業式と深く結びつき、切ない幕切れを迎える。

 裕里(松たか子)は、亡くなった姉・未咲の娘・鮎美(広瀬すず)から、未咲宛の同窓会の案内を託される。姉の死を知らせるため会に参加した裕里は、姉と間違えられてしまう。そして初恋の相手、鏡史郎(福山雅治)と再会した。やがて裕里は、鏡四郎に手紙を書くが……。

 物語は高校時代へと戻り、鏡史郎(神木隆之介)と未咲(広瀬すず:二役)、そして妹の裕里(森七菜:現在の裕里の娘と二役)の淡い初恋の思い出を辿り始める。彼らが交わす手紙が、未咲の死の真相や心に蓋をしてきたそれぞれの想いを解き明かす。

 中山美穂と豊川悦司が「Love Letter」以来、25年ぶりに出演している。2人は亡くなった未咲の人生に深く関わる役だが、特に豊川の“腐れっぷり”演技は注目だ。

 物語の最後に未咲は答辞を読む。そこにはこうある。「夢が叶う人もいるでしょう、叶いきれない人もいるでしょう。辛い事があった時、生きている事が苦しくなった時、きっと私たちは幾度もこの場所を思い出すのでしょう。自分の夢や可能性がまだ無限に思えたこの場所を」と。

 私たちはこの時、タイトルの「ラストレター」の意味と、亡くなった美咲の心を知る。そして静かな感動の波に浸されるのだ。

稲森浩介(いなもり・こうすけ)
映画解説者。出版社勤務時代は映画雑誌などを編集

デイリー新潮編集部

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