【豊臣兄弟!】美濃を攻略した信長が「岐阜城」で実現 宣教師もぶったまげた“目も上げられない”絶対性

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安土城天主につながる4階建ての豪壮な居館

 豪華なだけでなく、宮殿と庭園を複雑に入り組ませ、非常に優雅に造られているのがわかる。また、読み進むと、この「宮殿」が高層建築であったことに気づかされる。

「二階には婦人部屋があり、その完全さと技巧では、下階のものよりはるかに優れています。部屋には、その周囲を取り囲む前廊があり、市の側も山の側もすべてシナ製の金襴の幕で覆われていて、そこでは小鳥のあらゆる音楽が聞こえ、きわめて新鮮な水が満ちた他の池の中では鳥類のあらゆる美を見ることができます」

「三階は山と同じ高さで、一種の茶室が付いた廊下があります。それは特に精選されたはなはだ静かな場所で、なんら人々の騒音や雑踏を見ることなく、静寂で非常に優雅であります。三、四階の前廊からは全市を展望することができます」

 山麓の谷筋にある居館跡は昭和59年(1984)から発掘調査が重ねられ、信長らしく桁外れに広壮な実態が明らかになっている。入口には敵がまっすぐ侵入できないように、食い違いにした虎口(城の出入口のこと)が見つかり、そこには長さ3メートル近い巨石が並べられ、フロイスの「驚くべき大きさの加工されない石の壁がそれを取り囲んでいます」という記述が裏づけられた。

 居館の中心は虎口のすぐ上に置かれ、底を玉石で覆った池も見つかった。左右の谷筋はひな壇に造成され、最下段から最上段までの高低差は30メートル程度ある。中央にはいまも山から谷川が流れ込み、その両岸に折り重なる巨石は、信長が護岸した石垣が崩れたものと考えられる。また、谷川の北側には大きな池のある庭園も見つかった。この池には当時、いまも背後にそそり立つ岩盤から滝が流れ落ちていた。

 居館が4階建てだったのも注目すべきことで、安土城天主の先駆にあたる、信長の権力と権威を象徴する建物だったようだ。その屋根を飾っていた金箔瓦も見つかっている。

宣教師も驚いた信長の絶対性

 フロイスは山頂も訪れている。そして、「この前廊に面した内部に向かって、きわめて豪華な部屋があり、すべて塗金した屏風で飾られ、内に千本、あるいはそれ以上の矢が置かれていました」と書いている。山頂の建物も高層建築だったかどうかはわからないが、山麓も山頂も、可能なかぎり豪華に飾られていたことはわかる。

 そしてフロイスは、岐阜城を訪れ、信長の権力について感じたことを、次のように書き記している。

「もっとも私を驚嘆せしめましたのは、この国主(信長)がいかに異常な仕方、また驚くべき用意をもって家臣に奉仕され畏敬されているかという点でありました。すなわち、彼が手でちょっと合図するだけでも、彼らはきわめて兇暴な獅子の前から逃れるように、重なり合うようにしてただちに消え去りました。そして彼が内から一人呼んだだけでも、外で百名がきわめて抑揚のある声で返事しました。(中略)都では大いに評価される公方様の最大の寵臣のような殿も、信長と語る際には、顔を地につけて行うのであり、彼の前で目を上げる者は誰もおりません。彼と語ることを望む、政庁になんらかの用件のある者は、彼が城から出て宮殿に下りて来るのを途上で待ち受けるのです。すなわち何びとも登城してはならぬことは厳命であり……」

 また、山麓の居館についても、「たとえその寵臣であっても、彼(信長)が明白な言葉で召喚したのでなければ、誰もこの宮殿の中へは入らぬのであり、彼は入った者とは外の第一の玄関から語るのであります」と書く。

 信長が自身を、いかに絶対的権力として演出していたかがよくわかる。そして岐阜城自体が、その豪華さと求心的構造によって、信長という存在の絶対的な求心性を、織田家中に対しても外部に対しても示すための装置として機能していたといえる。

 信長はフロイスを岐阜城に案内する前に、「貴殿に予の邸を見せたいと思うが、他方、貴殿には、おそらくヨーロッパやインドで見た他の建築に比し見劣りがするように思われるかもしれないので、見せたものかどうか躊躇する。だが貴殿ははるか遠方から来訪されたのだから、予が先導してお目にかけよう」と語ったという。また、フロイスは「彼(信長)は私に、インドにはこのような城があるか、と訊ね、私たちとの談話は二時間半、または三時間も続きましたが」とも書く。

 信長は遠くヨーロッパやインドに、自身の権力や権威についてどのように伝わるか、非常に気にしていた。岐阜城からは、信長の野望の大きさまで読み取れるのである。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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