近所のゴミ置き場を荒らすカラスは駆除してほしいけど、田舎に出没するクマやイノシシは殺さないで…なぜ人は害獣駆除について“矛盾した思い”を抱えるのか
2025年秋、大手メディアはクマによる被害を連日トップニュースで報じた。北海道と東北地方、特に秋田県でクマの被害が頻発したが、報じられる際、「猟友会が駆除した」という言葉がセットになると、その度に自治体、さらには猟友会のメンバーに対し「かわいそうだろ!」とクレーム電話が殺到する事態に。北海道では職員がひとつのクレーム電話に2時間も対応した例があったという。また、イノシシを駆除しても今度は「ウリボウがかわいそうだ」と電話が届くのだとか。【取材・文=中川淳一郎】
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押し寄せるクレーム
クレーム電話をかけてくる部外者は、どうも自治体と猟友会を“悪の結社”扱いしているようだが、実態はどうなっているのか。筆者のように地方に住んでいると、猟友会は欠かせない存在のように感じるし、自治体の丁寧な仕事ぶりもよく分かる。だが、どうも都会の「動物愛好家」の方々には彼らの活動の意義が理解できないようだ。というわけで、猟友会と自治体がいかにして害獣駆除に携わっているのか、当事者に話を聞いた。
さて、クレーマーの多くは、人の命を奪う恐れもあるクマどころか、農作物を荒らして人間の生活に大打撃を与えるイノシシや鹿ですら、個人的感情の観点から、駆除するのではなく「共生すべきだ」と主張する。彼らの主張は、「人間が動物の居住エリアに侵出し、エサが減ったから居場所がなくなった」というものである。だが、実際に害獣被害に遭う人は異なる見解を持つ。私が住む佐賀県内の農家男性(70代)の発言だ。
「山間部の人口が減り、山と人里を隔てる地域の土地を整備する人が少なくなったことで、むしろ荒れ地が増えた。エサの有無はさておき、そうしたエリアに動物がやってくるようになったんですよ。人間が動物の居場所に入り込んだのではなく、順序が逆です。昔みたいに山を整備する人的余力があれば、動物とは共生が可能だった」
問題はそれだけではない。猟友会が気の毒なのは、遠く都会に住むクレーマーだけでなく、本来、身内であるはずの地元住民に叩かれてしまうリスクまであるからだ。2025年11月、北海道積丹町で、地元猟友会ハンターと町職員が罠にかかったヒグマの駆除に向かった。その際、危険だから罠から離れるよう同町議会の副議長(その土地の所有者)に伝えたところ「誰にモノを言ってるのよ? お前、オレのこと知らねえのか?」と威嚇された。そこから猟友会は町からの出動要請を約1ヶ月半拒否する事態となった。
ハンターのこの気持ちはよく分かる。というのも、地元の安全・経済活動のために安価な報酬で、しかも命がけで出動するのに部外者からのクレームに晒され、地元でも理不尽な扱いを受ける……。「やってられねぇよ」となるのは当然である。
捕獲報奨金
私が話を聞いた某市(クレームが来るため明かさない)の猟友会会長は「友人が農作業で苦労するからワシはイノシシを罠で捕らえているけど、正直体はキツイし、危険もあるし、報酬も安い。さらに、こんな扱いもされるんだったらもう潮時かな……」と語った。このように、友人、街、農作物のため、という人からすれば、現在の感謝されないどころか、クレームが殺到し、自治体のおエラいさんが威張っている状況はやるせないようだ。
一方、猟友会メンバーの立場を自分の人生を豊かにするために使う人もいる。別の猟友会所属のA氏(50代)だ。同氏は居酒屋で酒を飲んでいる時に、馴染みの客が店の大将に「コレ捌いてよ」と鴨を持って来たことから猟に興味を抱いた。その場で弟子入り志願をし、銃、猟、罠の資格を相次いで取得した。
「僕の場合は、害獣駆除で畑を守るとかではなく、あくまでも肉が欲しかったんですよね」と語るA氏は、ジビエに関する勉強を始め、師匠のツテで解体の練習をするようになった。その後猟友会に入り、駆除担当者としての登録をしたら3000円をもらえた。イノシシを駆除する場合は、自治体から猟友会に連絡があり、そこから出動する。成獣の場合は8000円~10000円をもらえる。
イノシシを捕獲したら、ペイントで自分の登録番号をイノシシの体に書き、写真を撮って尻尾を持って自治体へ行き、お金をもらうそうだ。某県庁でかつて害獣駆除関連の部署にいたB氏は、自治体と猟友会、そしてお金についてこう語る。
「県庁の役割は、被害額や駆除頭数などの取りまとめ、補助金の交付(県→市町)といった業務がメインで、私達が駆除をするわけではありません。市町は害獣駆除の許可関係の仕事と、地元の猟友会への駆除の依頼、そして捕獲頭数に応じて駆除者への支払いをしていました。
さらに、市町は『すみわけ対策』といって、ワイヤーメッシュや電気牧柵などの設置費用の補助とかもやっていました。支払うお金のことは『捕獲報奨金』と呼ばれ、イノシシ成獣○○円、幼獣○○円などという風に、イノシシが賞金首のようになっていました」
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