松山ケンイチ、ASD・ADHDの裁判官役で魅せる“真摯さ” NHK主演ドラマが揺さぶる「99.9%有罪」の常識

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エンケンも反逆児に

 当初の門倉はいつも通り事なかれ主義だった。しかし、安堂が「業界調査」と称して同業他社の実態を調べたり、佐久間の直近のドライブレコーダーを全て見ようとしたりしているのを目の当たりにして、徐々に顔つきが変わる。

 裁判中、被告側弁護人が、佐久間が副業で警備員をしていた事実を持ち出す。睡眠時無呼吸症候群の持病もあった。左陪席の落合は「これで決まりですね」と口にする。しかし門倉は「うーん」と唸る。決めつけたくなかった。

 ドラレコの分析などにより、運送会社が運転手たちに過積載をしていたことが分かる。法定規則を超える荷物を運ばされていた。事故原因は過重労働でなく、過積載だった疑いが濃い。

 門倉は司法行政の事務方トップである最高裁事務総長の矢延昭介(矢島健一)に釘を刺されていた。「悪目立ちするなよ」。矢延は門倉の同期で、定年後のことを相談していた。矢延がほのめかしたところによると、運送会社の親会社は法務相など政界とつながっているという。

 門倉は本来の自分と求められている自分の狭間で苦悩する。スマホで家族の映像を見た。「まぁ、うまくやるよ」と言った。だが、安堂が裁判に取り組む真摯な姿勢が、門倉に反逆児だったころを思い出させた。

 形勢不利と見た相手方の弁護士が絵里を相手に事実上のスラップ訴訟を仕掛けようとした。すると「司法の場を舐めるなよ!」と叫ぶ。門倉がたしなめなくても右陪席の安堂がガタガタと揺れていたから、相手側の弁護士に意見しただろう。

 門倉は「高裁に即時抗告してもらっても構わない」と言い放つ。自分の裁判が気に入らないのなら、高裁でやれというわけである。さらに政界につながる親会社の傘下にある子会社すべてのドラレコの提出を命じた。裁判は絵里が勝利した。 

 左陪席の落合はうんざりした表情だった。でも落合も変わる。発端はアパートの大家が申し立てたベトナム人男性のグエン・バン・ホン(ジュリウス)の立ち退き申し立て。落合はいつもどおり事務的に処理し、強制立ち退きを決めた。

 強制執行の執行官は津村綾乃(市川実日子)。冷めた目で裁判官たちを見つめている。安堂らに事件の真相を知るカギを教えることもあり、キレ者だ。

 大家の申し立てだと、立ち退きの理由は騒音と猫を飼っていることだが、津村が見たところ、どちらも該当しそうにない。だが、13歳くらいの少女がいた。津村が警察へ連絡しようとすると、グエンに刺された。

 少女の名前は春。無戸籍だった。母親は学校に行かせず、アパートの1室で認知症の祖母の世話をさせていた。祖母が亡くなると、今度は自分の経営するスナックで働かせていた。

 春が逃げ出そうとしたところ、母親に見つかる。揉み合いになり、転倒した母親は死んだ。春はビルから飛び降りて死のうとするが、グエンに止められる。気持ちが落ち着き、自首できるようになるまで、グエンの部屋にいることになった。だからグエンは警察と聞いて動揺し、津村を刺した。

 グエンは逮捕されたが、春は収容先の施設から消えた。施設職員らが探すが、その中には落合もいた。らしくない行動だ。春の身の上を知ったからだが、安堂と門倉に感化された。

 落合が春に掛けた言葉もいつもとは違った。「これからも辛い現状に直面するでしょうが、そのときは『助けて』と声を上げてください」。本人たちが気づかぬうち、事なかれ主義がはびこっていた前橋地裁第一支部は最強チームになっていた。

 小野崎も真実と被告人の利益を追い求める弁護士になった。その先輩弁護士・穂積英子(山本未來)も優秀で、弱者の側に立つことを忘れない。絵里の裁判でも弁護人になった。

 この面々がやがて手掛ける事件は再審請求だ。一家4人が惨殺された「前橋一家殺人事件」。逮捕された36歳の男は知り調べでは自供したが、裁判では無罪を主張。それでも死刑が言い渡され、既に執行された。

 ドラマを離れても死刑が執行されたあと、再審が開始された例はない。だから冤罪が認められたケースもない。取り返しが付かないせいでもあるだろう。

 再審請求は既に1度脚下されている。2度目の請求である。新証拠はあるのか。あった場合、安堂、門倉、落合はどう評価するのか。

 元死刑囚の自供を取ったのは結城英俊(小木茂光)。最高検察庁ナンバー3の次長検事である。安堂の実父だ。12歳のときに両親は離婚した。安堂たちが再審開始の判決を出すと、検察庁は困る。結城は窮地に追い込まれる。

 安堂は結城の影響を強く受けているようだ。結城は目標なのか、それとも反面教師なのか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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