松山ケンイチ、ASD・ADHDの裁判官役で魅せる“真摯さ” NHK主演ドラマが揺さぶる「99.9%有罪」の常識

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弁護士も変える

 第1回の被告はガソリンスタンドで働くアルバイトの江沢卓郎(小林虎之介)。タクシーに体当たりし、降りてきた乗客の市長を殴った。保険金目当ての詐欺罪と傷害罪で起訴されたが、法廷で「全部違う」と言い放つ。

 安堂も納得できなかった。刑事訴訟法の許す範囲内で江沢の家の周辺で聞き込みを行う。すると、江沢家は市に土地開発の名目で田畑を売ったところ、次々と不幸に襲われたことを知る。市の土地は企業に売れず、江沢の父親は新しい働き口を得られなかった。母親は家を出てしまい、父親は自死した。姉は脳梗塞で亡くなった。

 弁護士としてやはり江沢家に来た小野崎乃亜(鳴海唯)は安堂の姿を見てクビを捻る。なぜ裁判官が来ているのか。安堂はこう答えた。「どうして知能犯(保険金詐欺)から粗暴犯(傷害)に変わったんでしょう」。小野崎は言葉を失う。気が付かなかった。

 小野崎は東京の大手法律事務所に勤務していたが、前橋に来た。挫折したからである。弁護士になった当初は正義感に燃えていたが、無罪判決はなかなか勝ち取れない。いつしか無罪を主張する被告にも罪を認めさせ、情状面で争うようになった。しかし、ある交通事故の裁判で被告に泣かれてしまい、強いショックを受ける。「どうして誰も信じてくれないんですか」。自分の間違いに気付き、心が折れた。

 安堂は小野崎が集めた資料をほんの一瞬見ただけで、あることに気付く。江沢の姉はタクシーの運転手と同級生。何かある。運転手は検察側証人として法廷に呼ばれたが、弁護側の小野崎に対し、真実を告白した。

 江沢の姉は脳梗塞で倒れたが、手術をすれば助かったかも知れなかった。それを運転手は乗客の医師たちの会話で知った。医師たちは市長の後援会活動に出席し、不在だった。運転手は守秘義務と分かっていながら、死んだ同級生の弟である江沢に話した。

 だから江沢は市長を殴った。法廷で「姉ちゃんはたった1人の家族だった」と悔しそうにつぶやいた。運転手に迷惑を掛けたくないため、事件の詳細は黙秘していた。けれど法廷で口にしたとおり「全部違う」のである。

 安堂は江沢に対し、傷害罪で懲役1年6月、執行猶予3年の判決を言い渡した。詐欺罪はもちろん無罪。小野崎は安堂との裁判によって弁護士の役割を思い出した。

 部長判事の門倉は定年まで残り2年。事なかれ主義だ。よく冗談めかして「裁判官になんて、なるんじゃなかった」と言うが、どうも本音らしい。

 出世とは無縁。支部まわりを続けてきたからだ。かつては「伝説の反逆児」と呼ばれ、原発訴訟や環境訴訟で弁護側が快哉を叫ぶ判決を出していたためらしい。

 だが、門倉も変わる。運送会社の運転手・佐久間義之(清水伸)が通行人を死なせてしまい、自分も死んだ民事訴訟がきっかけだった。

 佐久間の娘で大学生の四宮絵里(伊東蒼)が過重労働に原因があるとして運送会社を訴えた。裁判長が門倉、右陪席が安堂、左陪席は任官3年目の落合知佳(恒松祐里)である。落合は上昇志向が強く、裁判を事務的に進める女性だった。

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