「仮釈放中」の男が乳児の頭に刃物を突き立て…05年「乳児刺殺事件」はなぜ「懲役22年」になったのか
保護観察官は何をしていたのか
だが、今の日本では仮釈放の前に精神鑑定するという制度はない。帝京大学の土本武司教授(元最高検検事)もこう批判する。
「仮釈放中の人物は国が厳しく指導監督する責任があり、この場合は保護観察官が直接の責任者ということになります。ところが犯人は、施設を飛び出して行方不明になり、数日後に犯行に及んでいる。そのことからしても保護観察官は何をしていたのかと言いたい。
さらにいえば、こんな男を仮釈放した責任もあります。服役囚の仮釈放を決めるのは地方更生保護委員会で、委員が服役囚と面談して仮釈放を決めるのです。現在のところ話し方や動作に不自然なところがなければ仮釈放されますが、今回の犯人のように常軌を逸した精神状態をなぜ見抜けなかったのか、その判断に問題があったとしか言えません」
法務省では、「通常の仮釈放の規定に基づいて行なわれたものです」というが、ならば殺人者を野に放った責任を誰が負うというのか。
(以上、「週刊新潮」2005年2月17日号「乳児刺殺 『34歳通り魔』を誰が『仮釈放』させたか」より)
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「心神喪失」と「心神耗弱」
犯行現場で緊急逮捕された約2週間後、Uは精神状態の簡易鑑定を受けた。結果は完全責任能力を認定。これを受けて殺人罪などで起訴となったが、4月に名古屋地裁で開かれた初公判で弁護側は「心神喪失」(物事の善悪がまったく判断できない状態)による無罪を主張した。
7月、Uは公判中に女性証人の顔面を殴りつけ、傷害罪で追起訴となった。この傷害事件で9月に初公判が開かれると、弁護側は「心神耗弱」(判断する能力が著しく減退した状態)を主張。だが、2006年6月、地裁は完全責任能力を認め懲役1年4カ月の判決を下した。
一方、乳児殺害事件は弁護側の精神鑑定提出、地裁による精神鑑定の実施などを経て、2007年11月22日に結審。検察側は心神耗弱を認め懲役30年を求刑、弁護側は心神喪失で無罪を主張した。2008年2月18日、地裁が下した判決は懲役22年。弁護側のみが控訴したが、同年9月18日、名古屋高裁はそれを棄却した。
なお、仮出所者らの保護観察制度を強化する「更生保護法」は、2007年6月8日に成立している。
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店内はさながら地獄絵だった――。第1回【「子供の頭に刃物を突き立てた!」と叫ぶ声が…05年の乳児刺殺事件、仮釈放から1週間で凶行に走った男の壮絶な半生】では、犯行時の様子を詳細に伝えている。
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