「怪異現象の引き寄せ体質」は実在するか オカルト好きの60歳男性が参加した“百物語”で見たものは【川奈まり子の百物語】

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引き戸の向こう

 クジ引きで話し順を決めて車座になると、死者の世界は現世の裏返しだとする“逆さごと”のきまりに準じて、時計回りではなく、その反対の左回りに話していった。

 1人ずつ怪談を語っては、鏡を手に取って顔を映す。

 どんどん話していったが何も起きないまま、蝋燭の火だけが減ってゆく。

 やがて未明になった。

「今、そこの引き戸がガタガタいいましたよね?」

 96話目を話し終えた若い女性が、かたわらを指差して言い、全員の顔を見渡した。

 タケダさんは皆の顔色を窺ったが、残った蝋燭4本の明かりは乏しく、表情までは見分けられない。

 彼は引き戸が音を立てたようには思えなかった。

 誰も答えないので、その女性は残念そうに「うちだけ感じたみたいやなぁ」とつぶやいた。

「あの引き戸の向こうはなんですか?」と誰かが訊ねた。

「本堂の待ち合いです。市松人形が3体置いてあるそうで」と、別の誰かが答えた。

家鳴りじゃない

 すると、その途端にギーッと軋むような音が聞こえた。

「家鳴りですね」と、これはタケダさんが指摘した。

 ギーッと再び音がした。

「2回目や」と誰かが言った。

 ギーッ!

「3回目や! タケダさん、これは家鳴りじゃないですよ」

 タケダさんは「そうですね」と同意を示した。

「怪奇現象だと私も思います」

 彼がそう言った直後、本堂全体がグラグラと揺れだした。

 阪神淡路大震災のときの記憶がふと蘇るほど、縦に横に、激しく揺すぶられたが、後に確かめてみたら、そのとき地震など起きていなかったのであった。

 揺れが収まり、みんなで気を取り直して97話から再開したときはすでに朝陽が差していて、100話まで語り終えても、もうそれ以上、異変は少しも起こらなかった。

 しかし市松人形に何の意味があったのは不明だし、揺れた引き戸を指差した女性はいったいどこの誰だったのか……参加者に訊ねて回ってもわからずじまいだったという。

―――

 百物語はなんともいえない終わり方を迎えた。【記事後編】では、タケダさんが体験した怪異の数々が明かされる。

川奈まり子(かわな まりこ) 
1967年東京生まれ。作家。怪異の体験者と場所を取材し、これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集。怪談の語り部としても活動。『実話四谷怪談』(講談社)、『東京をんな語り』(角川ホラー文庫)、『八王子怪談』(竹書房怪談文庫)など著書多数。日本推理作家協会会員。怪異怪談研究会会員。2025年発売の近著は『最恐物件集 家怪』(集英社文庫8月刊/解説:神永学)、『怪談屋怪談2』(笠間書院7月刊)、『一〇八怪談 隠里』(竹書房怪談文庫6月刊)、『告白怪談 そこにいる。』(河出書房新社5月刊)、『京王沿線怪談』(共著:吉田悠軌/竹書房怪談文庫4月刊)

デイリー新潮編集部

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