「国宝」はなぜ「国際長編映画賞」を逃したのか…「米アカデミー賞候補作発表」で専門家に聞いてみた

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 アメリカ映画界の祭典「第98回アカデミー賞」の授賞式が、日本時間の3月16日にハリウッドのドルビー・シアターで開催される。日本からは実写映画の歴代興行収入記録を22年ぶりに塗り替えて大ヒットを続ける李相日(り・さんいる)監督の「国宝」が出品された。もっとも、ノミネートされたのは“メイクアップ&ヘアスタイリング賞”のみ。期待されていた“国際長編映画賞”のノミネートを逃したのはなぜか。

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 週刊新潮(2025年6月12日号)のスクリーン欄では公開されたばかりの「国宝」が89点を獲得し、絶賛されている。

《歌舞伎の世界をベースにした芸道作品ではあるけれども、まるで華麗で波乱に富んだ人生絵巻でも見ているような痛烈な面白さ。(中略)喜久雄役には吉沢亮、俊介役は横浜流星と変わり、ライバル、そして親友同士となった2人の立場の違いが鮮明になってくるのだが、劇中、彼らが演じる〈道成寺〉ほかの演目の美しさは目を見張るほどで、その役者力に驚嘆する》

 執筆したのは辛口の映画評論家として知られる北川れい子氏だ。「国宝」への思いはそのままだろうか。

「そうですね、素晴らしい作品という思いは変わっていません。むしろ歴代興収記録を塗り替えるほどの大ヒットとなり、劇場へ足を運んで映画を見るという楽しさまで掘り起こしてくれました。映画業界にとっても素晴らしい作品になったと思います」(北川氏)

 それでも、米アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされなかったのはなぜだろう。

「やはり歌舞伎という独特の文化的背景は海外では理解されにくいのかもしれません。加えて、外国人からすると日本人はみんな同じ顔に見えると言いますからね。渡辺謙さんはわかるかもしれないけれど、若い吉沢亮さんや横浜流星さんは知られていませんし、その上、白塗りでカツラに女形の衣装では区別がつかないかもしれません。私だって外国映画で10人以上知らない役者が出てきたら迷いますからね」(北川氏)

 ただし、気がかりな点もあったという。

「覇王別姫」に似ている

「試写を見終えた評論家の間では、陳凱歌(チェン・カイコー)監督の『覇王別姫(はおうべっき)』に似ているという声が上がっていたのは事実です」(北川氏)

「覇王別姫」とは項羽と虞美人を描いた京劇のことで、1994年に日本で公開された中国・香港・台湾の合作映画だ。邦題は「さらば、わが愛/覇王別姫」。レスリー・チャンとチャン・フォンイーが演じた京劇役者2人の波乱に満ちた人生と近代中国の50年が彼らの目を通して描かれる。作品は大ヒットし、93年のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを受賞した。実際、李監督は、昨年6月に出品された上海国際映画祭の舞台挨拶でこう発言している。

李監督:「国宝」の映画制作にあたり、学生時代にチェン・カイコー監督の「さらば、わが愛/覇王別姫」を見た衝撃から、いつかこんな映画を撮ってみたいという想いを持っていた。それが歌舞伎をテーマに映画を撮ってみたいという思いにつながっていました。

「『覇王別姫』に似ていると思われたからかはわかりませんが、『国宝』はカンヌ国際映画祭でもコンペディションではなく〈監督週間〉での公式上映にとどまりました。日本映画に理解があると言われるカンヌやヴェネツィア国際映画祭で無冠だったということもアカデミー賞に影響しているのかもしれません。最近のアカデミー賞はカンヌやヴェネツィアの受賞作と被ることが増えましたから」(北川氏)

 かつてのアカデミー賞は欧州の映画祭とは異なる選考をしていたイメージがある。何が変わったのだろうか。ロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト・猿渡由紀氏に聞いた。

「以前のアカデミー賞がカンヌやヴェネツィアとは一線を画していたのは投票者が違っていたからです。かつてのアカデミーは圧倒的にアメリカ在住のアメリカ人の団体でしたが、多様化を目指すいま、海外在住のフィルムメーカーが非常に多くなっています。するとカンヌやヴェネツィアなどの常連も重なることになり、好みも反映されるようになってきています」(猿渡氏)

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