「山本さんは来年もセリフを覚えられるのか」の声にショックも…名優「山本學」と専門医「朝田隆」が語る“認知症患者の現実”

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 対談集『老いを生ききる 軽度認知障害になった僕がいま考えていること』(アスコム)が話題を集めている。名優・山本學氏(89)が軽度認知障害と診断され、認知症専門医の第一人者として知られる朝田隆氏(70)が山本氏の主治医となった縁から、二人が“老い”について語り尽くすという書籍が誕生した。二人のネームバリューもあって出版当初から注目されていたが、特に山本氏が昨年12月に「徹子の部屋」に出演し、著書に言及したことも大きかったようだ。(全2回の第1回)

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 初版が発売されたのは昨年11月、それから約1カ月半で6刷3万部まで版を重ねたという。

『老いを生ききる』は全4章・計24回の対談から成っている。デイリー新潮が山本氏と朝田氏に「第25回目となる、番外編の対談」を依頼すると二人から快諾を得た。テーマは「老いても、最期まで生ききる」人生とは──。

山本學(以下、山本):本が話題になっているのは嬉しいですが、率直に言って認知症に対する偏見は依然として強いことも実感しました。朝田先生は精神科医ですから、人に聞かれると「精神科に通っています」と答える。するとやっぱり、かなりの人が構えた態度になりますね。また映画やドラマは大きなものになると製作期間が1年ぐらいですから、関係者は「来年の山本さんはセリフを覚えてくれるのか?」という反応になります。ちょっと鬱になるのではないかと思うほどのショックを受けたこともありましてね。それは認知症にまつわる一面の現実だと痛感しました。

朝田隆(以下、朝田):非常に難しい問題ですね。認知症になっていない人は、認知症に関する「情報」しか持っていない。しかも正確ではない場合さえある。學さんは鬱になるほどのショックを受けたとのことですが、まさに認知症の患者さんは様々な反応が「自分のこと」として刺さるわけです。でも当たり前ですが、他人にとって學さんの状態は「自分のこと」ではない。そのギャップは非常に大きいと言わざるを得ません。

「スケールアウト」認知症

山本:医学の基礎を築いた古代ギリシアの医師・ヒポクラテスは何千年も前の人ですが、彼は「患者が自分の病を本当に治す気があるかないかを確かめろ」と言っていますね。医者は患者の手助けしかできない。本当に病を治すのは患者自身の自然治癒力だと。一方、認知症や老化という“病”を完全に治すことは不可能です。しかしながら、だからこそヒポクラテスの言葉をもう一度、しっかりと読み直すことは大切じゃないかと思います。

朝田:認知症の専門医として改めて指摘しておきたいのは、私が最初に學さんを問診した際、頭脳も明晰で記憶もしっかりしているという印象を持ったことです。ところが精密検査を実施すると軽度認知障害という結果になってしまいました。それでも學さんは「何でもいいので単語を10個、言ってください」とお願いすると、20個でも30個でも言える人です。軽度認知症という診断は下ったけれど、「スケールアップ」の逆である「スケールアウト」した認知症だと考えています。その点は強調しておきたいですね。

山本:とはいえ、自分がボケてきたな、と実感することは確かにありますよ。色々なボケが進行しているし、認知症とは全く異なる「老化」という問題も抱えています。

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