「パパ、おばさんがまた来てるよ」…霊感体質の娘だけに見えてしまう“おばさん”の正体とは【川奈まり子の百物語】

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前を向いて

 地下室には盛り塩をしてみたが、それからも時折、奇怪な現象が起きる。

「せめて妻の眠りを妨げないように……と思って、あやめを連れて菩提寺に通い、墓参りと供養に努めています」と彼は言う。

 どういう機序か、たびたび親子で墓参りに行き、その都度、一緒に住職の読経を聴いていたら、娘の霊感が治まってしまったそうだ。

「不思議なことを言わなくなりました。地下室の現象も間遠になってきましたし、遠からず、何もかもふつうになるのでしょう。娘が成人したら妻が遺した金庫の宝飾品を贈るつもりで、その日を楽しみに生きていきます」

 今はまだ、地下室のスピーカーから時折小さな音がブツブツと聞こえるが、もう気にならないという。

 前を向いて生きる彼にとっては、過去の残響は恐るるに足らず、ということか。

 筆者には、ユミさんも哀れに感じられて、やりきれない思いがするのだが……。

――― 

 妻の思い出と幼い娘を愛して、浩一さんはこれからを生きる――。【記事前半】では、かつての恋人との再会と、娘に備わった妻譲りのとある能力について述べている。

川奈まり子(かわな まりこ) 
1967年東京生まれ。作家。怪異の体験者と場所を取材し、これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集。怪談の語り部としても活動。『実話四谷怪談』(講談社)、『東京をんな語り』(角川ホラー文庫)、『八王子怪談』(竹書房怪談文庫)など著書多数。日本推理作家協会会員。怪異怪談研究会会員。2025年発売の近著は『最恐物件集 家怪』(集英社文庫8月刊/解説:神永学)、『怪談屋怪談2』(笠間書院7月刊)、『一〇八怪談 隠里』(竹書房怪談文庫6月刊)、『告白怪談 そこにいる。』(河出書房新社5月刊)、『京王沿線怪談』(共著:吉田悠軌/竹書房怪談文庫4月刊)

デイリー新潮編集部

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