90年代に変造テレカや違法薬物を売る“イラン人グループ”が公園を埋め尽くした理由…最高視聴率62.9%「日本の国民的ドラマ」がイランで大ヒットした影響も

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「薬物コンビニ」

 そして、変造テレカ密売グループから、より利益の上がる“薬物密売”を組織的に行う連中が現れ始める。彼らは、テレカの客からマリファナを求められたのか、それとも自分たちで思いついたか、いつしか街頭で大麻密売を始めたのだ。大麻が売れ出すと当然、日本の“メイン薬物”である覚醒剤に目を向けるようになる。さらに、MDMA、コカインなど商品メニューを充実させ、一気に多剤化したのだ。いわば動く「薬物コンビニ」である。

 数多くのイラン人組織が誕生し、大都市圏で配達密売や路上密売を繰り返すようになるが、渋谷のセンター街と名古屋のセントラルパークでの街頭密売は社会問題となり、世間の耳目を集めた。名古屋の中心街にそびえるテレビ塔のたもととその周辺には、常時、50~60人のイラン人が集まり、通行人に「クスリあるよ」「何でもあるよ」と堂々と声をかける。道行く車両にも片手を上げてサインを送る。金曜の夜ともなれば県外ナンバーが目立つ。停車してはウィンドウ越しにブツを買って行く。張り込み中のマトリ車両の助手席ドアを開け、「何がほしい!安いよ」と声をかけてきたイラン人もいた。渋谷でも同様の状況がうかがえた。常時、イラン人の売り子が溢れており、うるさいくらいに声をかけてくる。おそろしいほどの勢いだった。

 未曾有の事態に警察やマトリは、優先課題としてイラン人グループの取り締まりを強化し始めた。麻薬取締官によるブツの買い取りなど、おとり捜査を含め、あらゆる捜査手法を駆使して彼らの壊滅作戦を進めた。それが実を結び、2010年頃から彼らの勢いは衰退していく。02年には約300人に及んだイラン人密売人の逮捕は、10年は70人、15年には18人まで減少して行った。ピークは95年から02年だったと筆者は見ている。東海及び関東圏で彼らの残党が燻り続けたが、さほど脅威にはならなかった。

 大半のイラン人は本国に戻り、正規のビジネスを営む実業家となった者もいると聞く。一方、海外で改めて密輸組織を編成し、先鋭化して行く連中も出てきた。それが冒頭で紹介した“Iranian Drug trafficking organizations/Iranian DTOs”だ。

 19年にタイから液体に溶かした覚醒剤約58キログラムを密輸したとして、イラン人の男が逮捕された。22年にはトルコから覚醒剤を“スープ”に溶かして密輸しようとしたイラン人の男が逮捕された。

 この頃から筆者は「大規模密輸か……。かつてのイラン人グループが、日本版Iranian DTOsとして復活したのだろうか?」と関心を寄せるようになった。

 それを今般、神奈川県警等が見事に露呈させたのだ。“newイラン人組織”というか“brand newイラン人組織”というべきか、彼らは大規模密輸以外に、日本国内で“覚醒剤錠剤を密造”までしていたのである。おまけに、大量のアヘンを隠匿所持していた。いずれも前代未聞の話だ。

 第3回【“覚醒剤”の錠剤に「アニメやゲームのキャラクター」が刻まれるのはナゼか…元マトリ部長が明かす「海外では幼い子どもが誤飲する事件も」】では、密売組織の”戦略”について詳報している。

※上述したイラン人組織の沿革等については、拙著『マトリ 厚労省麻薬取締官』(2020年/新潮新書)に詳述しているので、興味のある方は是非一読願いたい。

瀬戸晴海(せと はるうみ)
元厚生労働省麻薬取締部部長。1956年、福岡県生まれ。明治薬科大学薬学部卒。80年に厚生省麻薬取締官事務所(当時)に採用。九州部長などを歴任し、2014年に関東信越厚生局麻薬取締部部長に就任。18年3月に退官。現在は、国際麻薬情報フォーラムで薬物問題の調査研究に従事している。著書に『マトリ 厚生労働省麻薬取締官』、『スマホで薬物を買う子どもたち』(ともに新潮新書)、『ナルコスの戦後史 ドラッグが繋ぐ金と暴力の世界地図』(講談社+α新書)など。

デイリー新潮編集部

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