「僕の心の恋人なんだッ」と松本清張が称した「新珠三千代」 持ち前の美貌と気品をさらに際立たせた”重要なポイント“とは【昭和女優ものがたり】

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東宝の看板女優へ

 新珠は翌年に東宝に移籍するが、さらに役の幅を広げていく。近松門左衛門の原作「女殺油の地獄」(1957年)では、情けをかけていた油屋の放蕩息子に惨殺されるお吉を、「私は貝になりたい」(1959年)では、BC級戦犯として死刑を宣告される男の妻役を演じた。

 そして「人間の條件」(1959~61年)に出会う。五味川純平原作の6部作を3回に分けて公開した9時間半の大作で、2025年11月に亡くなった仲代達矢が、戦争の中で人間らしく生きることに悩む主人公・梶を演じ出世作となった。

“永遠の女性”と称せられた妻・三千子役は、多くの女優による争奪戦となったが、清純さと演技力が評価され、新珠が起用された。(『日本映画俳優全集 女優編』キネマ旬報)。

 新珠は戦地で夫と共に生き抜く女性を演じきり、仲代と共に大きな評価を得たのだ。

小津安二郎との出会い

 新珠は小津安二郎監督作品に1本だけ出演している。「秋日和」(1960年)に東宝所属の司葉子が出演した見返りに、松竹所属の小津が東宝で撮った「小早川家の秋」(1961年)だ。

 京都・伏見の造り酒屋の隠居・小早川万兵衛(二代目・中村鴈治郎)は、かつての愛人(浪花千栄子)に再会してから、その家に足繁く通うようになった。亡くなった長男の嫁(原節子)の再婚問題や次女(司葉子)の結婚話が気にかかるが、家と店は長女(新珠三千代)と夫(小林桂樹)が切り盛りしてくれている。ある日、急に万兵衛の具合が悪くなり周りは動揺する……。

 どうしても小津に撮ってもらいたかった東宝は、オールキャストで待ち望んだ。司以外では、森繁久彌、宝田明、加東大介、新珠三千代、白川由美、団令子という豪華メンバーを揃えた。しかし、トップ俳優の森繁とは合わなかったらしい。

 森繁は後に、「ここぞとばかり全力投球で自分の芝居をふくらませようとすると、何度もカットがかかった」と話している(『小津安二郎・人と仕事』蛮友社)。しかし、これは当然のことだろう。役者としての卓越した反射神経を持ちアドリブを得意とする森繁と、綿密な構図に役者を当てはめる小津の世界が合うはずがない。画面を観ると、あの森繁がどこか窮屈そうにしているのが分かる。

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