怪談作家が忘れられない十数年前の不可思議体験…迷子の小学生男子に道案内を頼まれたその先にあったもの【川奈まり子の百物語】
親御さん
――こんな昔話をおもしろおかしく子どもに向かって披露していたら、R墓苑の出入り口が見えてきた。
「ああ、あそこにいる人たちは親御さんかな?」
墓地の出入り口の横に管理事務所の建物があり、そばに中年の男女が佇んでいた。
どちらも身なりが良い。男性は仕立てのいいワイシャツとビジネス用のスラックスを身に着け、女性の方は灰色のロングコートを着て白いストールを首に掛けている。
この子の両親に違いないと私は思って、軽く会釈した。
子どもは、男性の方へパタパタと駆け寄った。
「おとうさん! 案内してもらった! 道を間違えちゃって」
「ありがとうございます。ほら、おまえもお礼を言いなさい」
男性は私に頭を下げた。大きな花束を携えている。私が、子どもの行儀が非常に良く言葉遣いも丁寧だったことを伝えると、彼は恐縮して再び感謝を口にした。
父親が世慣れた常識人である一方、かたわらの女性は沈黙しつづけていた。
これには違和感があった。女は女同士の方が口をききやすい。この状況なら、むしろ母親の方が如才なく礼を述べそうなものだ。
痩せた女性だった。頬がそげているが、肩幅の狭さや首の細さから推して、生まれつき細身に出来ているのだろうと思われた。子どものほっそりした体つきは、この母親ゆずりのようだ。よく見れば、面差しも似ている。
去りぎわに背中に視線を感じて振り返ると、父子が並んで墓地の中へ入ってゆくところだった。
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迷子の少年を墓地まで送り届けるも……。【記事後編】では、筆者がふと感じた違和感が詳細に描かれる。
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