転勤について来てくれなかった恋人 その後、音信不通になり…自宅に押しかけて知った「秘密」
人の振り見て…
2年ほどたったころ、同業他社の男性がいきなり会社を辞めた。彼はその会社では期待されていただけに、彼を知っている人はみんな首を傾げていたという。慎二さんは、その男性とわりと親しかった。
「たまにだけど一緒に飲んだり、カラオケに行ったこともありました。彼は本当に仕事が好きだったから納得ができなくて、共通の知り合いに理由を聞いて回ったんです。噂の範疇は出ないけど、独身だと思っていた女性が実は既婚者で、彼は別れられずに彼女の自宅周りをうろうろしたりして警察を呼ばれたこともあったとか。それが問題となって退職したそうです。ひょっとして相手は紀代乃さんかもと思ったけど、それはわからなかった。ただ彼の行動は、僕が陥っていたかもしれない状況だったわけで……。なんだか身につまされました」
そこでようやく紀代乃さんへの未練を断ち切れた。彼は28歳になっていた。結婚でもするかと彼はそのとき思ったという。「結婚でも」というのは相手に失礼だとわかっていたが、「とりあえず人生を変えるために結婚するという選択肢もある」と考えたようだ。
「女性に夢や期待をもてなかったから、ごく普通の人なら誰でもいいと思ったんです。ところがこの“ごく普通の人”を探すのがむずかしかった」
彼自身、別にエリートでもないし、ごく普通の会社員だという意識があった。だから相手もごく普通の会社員で、共働きしながら子どもがひとりかふたりいて、という一般的な家庭像を描いていたのだが、そもそも「ごく普通の同世代」が見つからない。
「ビシバシ自分の意見を言う人がおもしろいなと思ってつきあってみるけど、僕の着ているものにまで文句を言ってくると、怖いから逃げたくなる。おとなしい人がいいかといえば、一緒にいてもつまらない。無意識のうちに、紀代乃さんのような人を探していたのかもしれません」
結婚はあきらめようと思った。もともとどうしても家庭を作りたいわけでもない。ひとりで自由に生きていくさと強がるようになった。
未練を断ち切れた出会い
だが37歳のとき知り合った3歳年上の秋奈さんが、彼のその決意を翻させた。年上に惹かれるのは、やはり紀代乃さんの影響力が残っているせいかもしれない。
「友人に誘われて行ったパーティで出会ったんです。友人が主催していたわけじゃなくて、僕は頭数合わせに駆り出されただけなんですが。友人は知り合いを見つけては話していたけど、僕は知り合いもいないし、適当なところで帰ろうかと考えていた。そのとき壁を背にしてひとりで飲んでいる女性が目に入って。話しかけたら、彼女も数合わせで来ただけだとわかったので、ふたりで出ましょうかということになったんです」
ろくに食事もしていなかったので、ふたりで近くの居酒屋へ行った。そこでの秋奈さんの健啖家ぶりが慎二さんの恋心に火をつけた。次々と頼んではきれいに食べ、「これ、おいしいですよ」と勧めてくれる。ときには店の人に作り方を聞いたりもしていた。慎二さんとの会話の流れを壊すことなく、さらりとそういうことをやってのけるのだ。
「料理も好きだと言ってましたね。僕はもともとそんなに大食ではないんですが、彼女と話していると、どんどん食べ物が気持ちよく体に入っていった。こういう女性も珍しいなあと思いました」
それをきっかけにつきあいが始まった。何度目かに会って「つきあいたい」と言ったとき、彼女は「私は離婚しているから。結婚を視野に入れるなら私とはつきあわないほうがいいと思う」と言った。
「もう結婚はこりごりと彼女は言いました。結婚と彼女、天秤にかけたら彼女とのつきあいを優先させたい。だから結婚なんて考えていないと言うしかなかった」
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