日本人の血を引く「ドイツ人女性監督」が描いた“ユダヤ人ホロコースト”をたどるロード・ムービーと重なる監督の人生とは

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実は、フォン・ハインツ監督の曾祖母は……

 それにしても、フォン・ハインツ監督は、「ドイツ人」である。ユダヤ人ホロコーストについていえば、“加害者側”ということになる。そんな立場で、こういう映画をつくることに、どういう意識を持っているのだろうか。

「こういうことは、ドイツ人として、しっかりと責任感をもって語り継いでゆかねばならないと思っています。すでに、戦後生まれの第二世代にとっては、実体験がないだけに、直接の“苦しみ”も、ありません。第三世代、第四世代となれば、なおさらでしょう。ドイツでは、ユダヤ人ホロコーストの事実も、学校教育では、きちんと教えられています。しかし、第二世代以降が大半の現在では、もう、家庭内で話題になることは、ないのです。子どもたちに“むかし、何があったのか、家族に聞いてごらん”といっても、その聞く相手が、いないのです。日本もヒロシマ、ナガサキと、2回の原爆投下という悲劇に襲われましたが、おそらく、おなじように、聞く相手は、家族のなかには、いなくなりつつあるでしょう。それだけに、このような映画を制作して、多くのひとたち、多様な世代に観てもらうことは、ますます重要になってくると思っています」

 そして……会話のなかに「日本」「家族」といったキーワードが出てくると、監督は、突然、意外なことを語った。

「実は、わたしの母方の曾祖母は、日本人なんです。フミさんという名前だったそうです」

 いままで、監督のオフィシャル・プロフィールに、そんなことは書かれていなかったので、驚いてしまった。

「詳しいことはわかりませんが、フミさんは、むかし、東京にいたそうなんです」

 1976年生まれのフォン・ハインツ監督の曾祖母とあれば、東京にいたのは、明治時代の半ばころだろう。ということは、フミさんが生まれたのは、維新前の江戸時代末期かもしれない。

 そんな話をしているうちに、フォン・ハインツ監督は突然、オンラインの画面から、姿を消した。いったい、どこへ行ってしまったのか――と、待っていると、1冊の本を手に、ふたたび、画面にもどってきた。

「わたしは、ハルキ・ムラカミの大ファンなんですよ」

 その手にあったのは、村上春樹の短編選集『象の消滅』ドイツ語版だった。おおもとは、1993年にニューヨークのクノップフ社で編集・出版された本で、日本では2005年に新潮社で刊行された。

「ムラカミは、ドイツでもとても愛されていて、人気があります。そのせいか、あるいは、曾祖母が日本人だったせいか、わたしの息子は、いま、日本語を学んでいるんですよ。さらに、わたしのきょうだいや親戚も、みんな、日本へ行ったことがあるんです。わたしだけが、まだ行ったことがありません。ぜひ、機会を見つけて、曾祖母の国・日本へ行ってみたいと思っています」

 どうやら、フォン・ハインツ監督より、映画のほうが、先に日本にやってきてくれたようだ。公開は1月16日から。新年の劈頭を飾るにふさわしい、おとなの映画である。

映画「旅の終わりのたからもの」 1月16日(金)より、kino cinema新宿ほか全国ロードショー/配給:キノフィルムズ
【写真】(C)2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS

※kino cinema新宿の「e」はアキュート・アクセント付きが正式名称です。

森重良太(もりしげ・りょうた)
1958年生まれ。週刊新潮記者を皮切りに、新潮社で42年間、編集者をつとめ、現在はフリー。音楽ライター・富樫鉄火としても活躍中。

デイリー新潮編集部

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