60歳夫の「人生の肝」3人の女性 別れない妻、元・不倫相手…自称「最後の恋」のお相手は
「一緒に暮らそうか」
東京で暮らそうかな、仕事なんて何でもいいからと舞香さんはつぶやいた。先など見ない生き方をしようとしている舞香さんが羨ましいと彼は思った。そして彼女と一緒にいたいと痛烈に感じたという。
「一緒に暮らそうかと言ったら、舞香がパッと目を輝かせて『それもいいね』って。さっきまでと違う、生きた表情だった。オレなんかでいいのと言ったら、お互いさまでしょ、私のほうがろくでなしだもんって。人として、彼女がかわいいと思いました。今まで僕は背伸びして生きてきたのかもしれない、やっぱり地元の香りをつけて来てくれた舞香といると、ホッとする」
舞香さんはどうやって交渉してきたのか、いちど地元に戻って愛人の経営者と話をつけてきたようだ。月に1度の息子との交流は欠かさない。それ以外に生活費としていくらかもらえることになったと笑っていた。そのたくましさに寛一さんは驚いた。
「裕美子には、娘もいなくなったことだし家を出てもいいかなと言いました。すると『理由は?』と。特にない、もうオレの役目は終わったみたいだからと答えると、『離婚はしないわよ。会社に言うのも嫌だから』って。わかったと家を出て、舞香と一緒に暮らせるマンションを借りました。妻に生活費を入れる必要はなかったので、なんとか暮らしてはいけました」
すべては縁
舞香さんはアルバイトを始めた。東京の暮らしが楽しいと、ふたりであちこち出かけた。東京の大学に進学した舞香さんの息子にも会わせてもらった。息子は母を裏切ったような気持ちになっている、そして今は母に裏切られたとも思っていると寛一さんに言った。
「親子関係も恋愛関係も、すべては縁だと思うと僕は言いました。あなたたち親子は今も会うことができる。それがすべてじゃないのかな。あなたのおかあさんは、命を懸けてあなたを守った。でもあなたは自分の将来を考えて、父親の元へ行った。どちらも正しいんだよ、最後まで答えは出ない。人生はそういうものだと思うと。その言葉は僕が自分自身に言い聞かせていたんです。そのころ、僕は自分がどうやって生きればいいかわからなくなっていたんだと思う」
舞香さんに告げた「別れたい」
舞香さんとは10年以上、一緒にいた。そしてある日、彼は舞香さんに別れたいと言った。どうして別れたくなったのかわからない。舞香さんは「私は捨てられる」と、寛一さんの妻の裕美子さんに泣きついた。
「裕美子から連絡があって、私がとやかく言うことじゃないから、あなた、ちゃんと説得しなさいよって。『きみはどうなの、元気なの?』と聞いたら、『同じ社内にいるんだからわかるでしょ』と。相変わらずビジネスライクだったけど、口調は優しかった。彼女はそのころ役付になって、もはや僕など手の届かない存在です。でも考えてみたら、彼女はほとんど変わってない。昔からそんな感じでビシッと言うタイプだけど、決して冷たいわけではない。娘のこともひとりで淡々と決めていったけど、確かに留学について無知な僕にいろいろ相談なんかしてもしかたがないし……。彼女が賢明だっただけなんでしょうね」
舞香さんを説得するのはむずかしかったが、彼は少しずつ距離をとった。大学を卒業して、修業のために就職した舞香さんの息子が「母と一緒に住む」と言ったが、彼は大事な時期だった。舞香さんは息子に諭されたらしく、週に数回しか戻らなくなった寛一さんに対して、「もう、めんどうだから出て行って」と言った。
「実は気になる女性がいたんです。でもつきあっているわけではなかった。それなのにその女性に近づくには舞香とは別れなければと思ったんです。僕にとって、これが最後の恋になると確信したから」
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