高校授業料の無償化は格差拡大にしかならない… 支出するべきはむしろ「大学」

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経済格差がますます広がる

 文部科学省の「令和2年度学校基本調査」によれば、高校の総数は4,874校で、うち公立が3,537校を占める。私立は1,322校で全体の約27.1%にすぎない。生徒数では私立高校生は約35%と3割を超えるが、それでもほぼ3分の2は公立高校に通っている。そして2025年度には、公立高校の授業料は所得制限なしで無償化されていた。

 つまり公立高校を選ぶかぎり、所得がどんなに低い世帯であっても、子供を高校に通わせる際の学費の負担はすでになくなっており、高校教育の機会均等は実現していた。それなのに、どうして私立高校の学費までタダにする必要があるのだろうか。

 維新の牙城である大阪府では、先行して2025年4月から高校授業料が無償化された結果、公立離れが加速した。私立高校を専願で受験する生徒は31.64%と、過去20年ではじめて3割を超える一方、公立高校の志願者は急減して、府立高校の半数近い70校が定員を割ってしまった。少子化の影響もあるにせよ衝撃的な数字であった。

 しかし、校舎がきれいだ、手厚くサポートしてもらえる、などと評判の私立高校を生徒が指向するのは当然だろう。だから、どう考えても公立高校の地盤沈下につながる。教育内容の低下を招き、さらに公立校離れが進むという負の連鎖が生じかねない。

 また、高所得世帯も等しく授業料が無償化されることで、これまでも子供を私立高校に通わせる経済的な余裕があった世帯は、浮いた金額を塾などに投じる余裕ができる。結果として、親の経済力による教育格差はますます広がることになる。

選挙目当てのポピュリズム

 日本維新の会は高校授業料を無償化する目的を、「すべての子供が家庭の経済状況に左右されることなく、希望する教育を受けられる環境を整えること」だと明記している。本当にそう考えるのであれば、運営費が不足する高校を重点的に支援するなどして、高校間の教育環境の格差是正こそ図るべきではなかったのか。

 希望するだれもが高校へは進学できる環境は、これ以上の予算を投じなくても、すでに整備されているのだ。そのうえ、選べる人が選べばいい私立高校まで無償化するということは、すでに述べたように、私立と公立の格差の拡大を招くばかりか、経営努力を怠って淘汰されるべき私立高校を、生き永らえさせることにもつながる。

 有名私立高校の生徒の多くにとっては、塾などにも通いやすくなり、これまで以上に手厚いサポートを受けられるので、無償化は朗報かもしれない。しかし、それは予算を投じる本来の目的とは、かなりかけ離れている。

 教育格差を是正するはずが、拡大につながってしまう高校授業料の無償化。本当に困っている層に重点配分するよりも、このようにわかりやすいバラマキによって支持を得ようとすることを、ポピュリズムと呼ぶのではないだろうか。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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