「スキャンダルはチャンスなんだぞ!」…引退「棚橋弘至」が憧れた「アントニオ猪木」からの金言

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渾身のピザパイ

 読書家としても有名な棚橋。この時期に読んだ書物で印象に残ったものがあるという。それは、『チーズはどこへ消えた?』(スペンサー・ジョンソン著。扶桑社)。無くなったチーズを待ち続ける存在を置き、現状を変えようとしないことに警鐘を鳴らすビジネス書だった。また、ある長寿企業の知人の講演も、胸に深く銘記された。

〈長寿企業の秘訣は3つある。1つは、理念がしっかりしていること。1つは、技術がしっかりしていること。もう1つは、時代の変化に柔軟に対応出来ること〉

「最初の2つは新日本にはある。だけど、皆、『ゴールデンタイムの時はどうだった』とか、過去と今を比較するばかりで、3つ目の、時代の変化への対応が出来てなかった。それをしたのが、僕です」

 もう10年以上前だが、インタビューにそう力強く答えて頂いた姿が印象に残っている。

 この時期、雑誌での対談という形で、猪木との再会もあった(「週刊プレイボーイ」2013年1月14日号)。

〈「相変わらずモテてる?」(猪木)
「おかげさまで、いいモテ方をしてます。健全なモテ方を(笑)」(棚橋)〉

 という出だしで始まった対談は、過去との比較の話題へ。猪木が昔のプロレス業界を大きなピザパイにたとえ、今はたくさん食べられて、小さくなったピザパイを業界全体が食い合っている状態と嘆く。すると、棚橋は、こう返した。

〈「僕が新しいピザパイを持ってきます、絶対に!」〉(棚橋)
「ほう、いいじゃない」(猪木)〉

 そして、いみじくも2025年、棚橋が出演したNHKの番組でMCをしていた、プロレス通として知られるお笑い芸人、博多大吉が「個人的な意見」としながらも、以下のような見解を述べた。

「昭和のプロレスって、ただでさえ人気あったから『客に見せてやるプロレス』だったんですよ。そこから時代が変わってチケットが売れなくて。どん底に入った時に棚橋さんが現れて、『客に見せてやるプロレス』から『お客様に見ていただくプロレス』に変えたんです。棚橋さんがいなかったら、多分、日本のプロレス界、終わってると思いますよ」(NHK「あさイチ」2025年2月13日放送分)。

 冒頭で、猪木の引退試合を生観戦していたことを明かした棚橋。東京ドームでの生観戦は、1995年10月9日に行われた新日本プロレスvsUWFインターナショナルの全面対抗戦で、この時は立命館大学のプロレス研究会の仲間たちと一緒に2階席の後方での観戦だった。だが、3年後の猪木の引退試合では違っていた。棚橋は個人で花道の横の高価な席を獲り、猪木の引退を見届けたという。やはり、印象的な東京ドーム大会だったと語る。

「隅々までお客が入っててね……。凄いと思いました」(棚橋)

 猪木は2022年10月逝去。翌年3月の「お別れの会」で弔辞を読んだのは棚橋だった。そして、「猪木問答」についても、近年、各媒体で、こう振り返っている。

「あの時の自分の言葉に、僕は何の後悔も曇りもないですよ!」

 棚橋が引退する2026年1月4日の東京ドーム大会は、追加席も含め、既に全席が前売りで完売している。久々にフルハウスとなるプロレスの東京ドーム大会は、棚橋から猪木への、渾身のピザパイとなるはずだ。

瑞 佐富郎
プロレス&格闘技ライター。早稲田大学政治経済学部卒。フジテレビ「カルトQ~プロレス大会」の優勝を遠因に取材&執筆活動へ。現在、約1年ぶりの新著『10.9 プロレスのいちばん熱い日 新日本プロレスvsUWFインターナショナル全面戦争 30年目の真実』(standards)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

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