俵孝太郎さん、橋幸夫さん、吉行和子さん、ジェームス三木さん…2025年に逝った「凝り性の著名人」たちの個性的すぎる“極め方”【追悼】
ビリでも続けた俳句
「上手い下手」を知らずと超越していたのは、女優の吉行和子さん(2025年9月2日死去、享年90)かもしれない。50歳を過ぎてから始めた俳句について語ったのは、2008年8月、73歳の時。本来は誰かと一緒に遊ぶことに馴染めない性格だが、〈俳句は誰かと一緒でなければ面白くない〉という。
〈当初、俳句というものに拒否反応がありましたが、(句会に)出席してみたら、見事にはまってしまいました。ところが、私の俳句は誰からも選ばれずビリで、(句会に誘った)冨士(眞奈美)さんや岸田(今日子)さんからは「これだけビリが続いても出てくるのはたいしたものよ」と励まされたりしました〉(2008年8月28日号)
下手の横好き、あるいは好きこそ物の上手なれ。俳句を考える時は切羽詰まっているが、自分の句が選ばれると天にも昇る気持ちになるのだとか。
〈俳号は窓鳥といいます。その由来は、インド旅行した時、窓外にいる鳥がいつまでもじっとしていて、まるで瞑想をしているように思えたので、その場面にちなんでつけました。今年詠んだ句では「春浅しうすく笑って人は逝く」が私なりに気に入っています。人はいろんなことがあっても、亡くなるとスーッと微笑んだ表情になる感じを詠みました〉(同)
吉行さんの落ち着いた、静かな微笑みが思い出される。
数字にも“キャラクター”を見た脚本家
連続テレビ小説「澪つくし」や大河ドラマ「独眼竜政宗」などで知られる人気脚本家のジェームス三木さん(2025年6月14日死去、享年91)は、75歳だった2010年8月のコラムで〈何年も前から数独に取りつかれている〉と“告白”した。始めたきっかけは、飛行機や新幹線の中で煙草が吸えなくなり、気持ちを紛らせるためだったという。
〈信じてもらえないと思うが、数字と格闘していると、それぞれの数字の性格や意志が、くっきりと見え隠れする。たとえば1は引っ込み思案、2は気取り屋、3は正義感、4は野暮ったいが誠実、5は頑固でのろま、6は気まぐれで挑戦的、7は目立たないが気がきく、8は陽気なお人好し、9はリーダーシップがある。論理的にはあり得ない話だが、数字の形状や、出題者の意図の反映が、妄想を生むのかもしれない〉(2010年8月26日号)
登場人物とその言葉を作る仕事だけに、あらゆるものから性格を読み取ることができるのか……とこちらも妄想してしまう。
〈数独は単なる娯楽ではない。作者との対話であり勝負なのだ。隠された美学や気合いを感じ取ることで、心の交流が生まれるのである〉(同)
たかがパズル、されどパズル。そこには物語が存在していた。
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