DVに苦しめられた女たちが天誅を… “交換殺人”に手を染めた被害者の執念【レビュー】
今年はWOWOWの当たり年。私好みの作品(役者陣)が多く、1年で6作も紹介したが、最後に「シャドウワーク」も書いておきたい。DVに苦しんだ女たちが連係し、加害者に天誅を下す。タイトルで想像はできたが、その完璧な連帯に説得力があって見入っちゃったから。
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暴力で心身の健康と自由、尊厳を奪われた女たちは逃げて隠れて社会から断絶される一方、加害者は野放しで暴力を繰り返す。そこに終止符を打ちたい女たちが、用意周到な計画を実行。手を汚さざるを得ないのは社会が変わらないから。根底には男社会のひずみもあると示唆する構図だ。地上波ドラマがさらっと1話だけで流しがちな題材を、真摯に深く抉っていく良作である。
主人公・紀子(多部未華子)は夫(森岡 龍)の暴力で主語も判断力も奪われていた。夫の機嫌を損ねないことだけを考え、季節を感じることすら忘れる日々。夫に脚を刺されて命の危険を感じた紀子は、意を決して病院へ逃げ込む。そこで看護師の路子(石田ひかり)に声をかけられる。DV被害女性が共同生活をするシェアハウスに誘われたのだ。
ここを運営する昭江(寺島しのぶ)はパン屋も経営。入居者たちは家事もパン屋の仕事もみんなで「持ち回り」というルール。夜はトランプや心理ゲームをするのが日課。奈美(トリンドル玲奈)、雅代(須藤理彩)、洋子(上原実矩)と共に共同生活を送り始めるが、住所非公開のはずが全国各地から手紙が日々届くなど、謎も多い。ほどなくして、「持ち回り」の意味を知ることに。
分かりやすく言えば交換殺人だ。誰かを苦しめた男は他のみんなで連係して殺す。綿密な計画を立て、痕跡を残さず、自然死を装う。薬で眠らせた後、注射器で血管に空気を送り込み、心不全を起こさせる場面の描写が秀逸でね。無駄なく流れるように動く女たち。人を殺しているのに、どこか温かみのある看護のような作業風景。BGMは佐良直美の「世界は二人のために」という大いなる皮肉。迅速かつ丁寧なチームワークに女たちの覚悟も伝わる。
登場するのはシェアハウスの女性だけではない。警察庁エリートの夫(問題のある夫役で今年のMVP・竹財輝之助)からDVを受けていた警部補の北川薫(桜井ユキ)。夫を訴えたために白眼視され、館山南署に左遷。権力と地位にひざまずくタテ社会・男社会では、エリート夫を訴えた妻が排除されたのだ。薫の存在が、DVがなくならない・DVの本質が理解されない社会のひずみを炙り出したと思う。
DV被害者と思しき女性の遺体が見つかったが、その背景を調べもせずに自殺で処理する男の刑事たち。薫は納得がいかず、被害者の過去を調べ始める。若手刑事の荒木(川西拓実)も初めはタテ社会の下僕だったが、薫の背景を知って徐々に変わり始め、協力体制へ。
執念の捜査で薫がたどり着いたのは看護師の路子だった。女たちのシャドウワークは薫によって暴かれるのか、それとも……という話。殺人は重罪だが、希望のある結末も求めてしまう、二律背反に悶える作品である。








