井上光晴にそそのかされ、瀬戸内寂聴にはっぱをかけられ… 横尾忠則が泉鏡花賞を受賞するまで

  • ブックマーク

 50年ほど前、画家に転向する数年前、40歳頃かな、そんなある日、井上光晴という人から電話が掛かってきました。

「私、文学をやっている井上光晴という者ですが、あなた、ひとつ小説を書きませんか。お母さんのことを書いたエッセイを読みましたが、あんなんでいいですから小説を書いて下さい」

 声が大きくて、やや高圧的な、えらそうな言い方をする人、井上光晴ねえ、そんな人いたかな、と思いながら、「母についてはもう書けません」と断ったら、「じゃ、お父さんでいいじゃないですか」。...

つづきを読む