歴代“朝ドラ”マイベスト5に入りそうな予感… 「ばけばけ」にすっかり心を奪われた

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 ヒロインの一家がそろって丑(うし)の刻参り、わら人形に五寸くぎを打ち込んで恨み節を垂れ流す。爆笑して第1回からすっかり心を奪われた朝ドラ「ばけばけ」。赤貧&愚父という私の大好物も完備。さすが大阪局とうなる毎日だ。

 武士の世が終わり、野蛮な因習も理不尽な忠義も消滅、平和で穏やかな暮らしになるはずが、下級の武家を待ち受けていたのは屈辱と極貧。侍の矜持に固執する祖父(小日向文世)、怠惰で軽率な父(岡部たかし)、秘めた感情は強火な母(池脇千鶴)という松野家で育ったヒロイン・トキを演じるのは高石あかり。怪談好きでちょい変わった女子役に最適。表情と仕草が多弁でコミカルだが、切なく心打つような場面では空気を一変させる馬力があるのよ。

 このカルテットが最強、四人とも悲劇と喜劇の切り替えが絶妙で、呼吸と間合いもぴったり。莫大(ばくだい)な借金を抱えたり、せっかく迎えた婿(寛一郎)に逃げられたりと、悲しくて辛くて耐え難い状況に直面しても、必ず笑いで埋める茶目っ気がある。思いやりと優しさで支え合うエエ話だけでは決して終わらせない、家族ならではの「険と毒」がある。朝ドラはヒロインが家族から巣立つのが定番だが、松野家は別格。最終回まで出てほしいくらい、悲しくておかしくて愛おしいのだ。

 トキは松野家の実子ではなく、松江の名家・雨清水(うしみず)家に生まれた子だ。実父(堤真一)が亡き後、雨清水家は没落して一家離散状態。実母(北川景子)は物乞いに、三男(板垣李光人)は無職に。松野家の大借金を返済するだけでなく、雨清水家の困窮も救うために、トキは外国人教師の女中になった。

 おっと、途中の経緯を端折っちゃったが、トキが逃げた夫を追って東京に行ったときに出逢ったのが錦織(にしこおり)友一だ。「国宝級イケメン」の呼び名が今年別の意味で現実となった吉沢亮が真顔でコメディーを担っている。

 錦織は賢くて優秀、「大磐石」の異名をもっていたはずだが、何やらワケアリの様子。島根県知事(佐野史郎)に頭が上がらない錦織は、知事が松江に招いたレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)の世話役を命じられてから、すっかりいじられキャラに。ヘブン先生はなかなかに面倒臭くて厄介。武士の娘を条件に女中を探した結果、トキに白羽の矢が立ったというワケだ。

 現在、物語はトキがヘブンに思いを寄せ始めたところだ。「怪談」で有名な作家・小泉八雲とその妻・セツがモデルなので、年内には結ばれるかな? 愛の芽生えと成就を見守っている。

 島根県知事の傲慢な娘・リヨ(北 香那)は、二人の恋の起爆剤としてはグッジョブである。また、トキの幼なじみで貧乏長屋仲間のサワ(円井わん)も、微妙な気遣いで空回りしているが、親友として不可欠な存在だ。

 盛った記事を書く新聞記者(岩崎う大)、ヘブンと犬猿の旅館主人(生瀬勝久)と女将(おかみ/池谷のぶえ)らも画面の端でしれっと笑いを誘う。

 主題歌も耳心地がよくて、つい口ずさむ。毎日歌って笑って体によさげな朝ドラ、歴代の朝ドラ・マイベスト5に入りそうな予感がする。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2025年12月18日号掲載

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