「浮気相手に会ってもらいたい」義父の頼みに嫌とはいえず…結果、40歳夫は誰にも言えない秘密を抱えるハメに
ごく自然に唇を…
あるときひとりでぶらっと店に行くと、ママがいなかった。珍しく風邪をひいて伏せっているという。紗里さんがひとりで忙しそうだったので、翔一郎さんはグラスを洗ったりテーブルを拭いたりして手伝った。
「終電がなくなってお客さんもいったんはけてホッとしたとき、紗里さんが『あー、疲れた』とフラッとしたので、あわてて支えました。なんだかよくわからないけど、その瞬間、ふたりの気持ちと欲望が一致してしまったんでしょう。ごく自然に唇を合わせた。だんだん熱情がわきおこってきたところで彼女が顔を離し、『今日はありがとう。食事、つきあってくれない?』と。早じまいして近くの小料理屋で食事をして。彼女がひとりで暮らしている部屋に送っていったら、そのまま上がれと言われて……」
彼は早口でそう言った。お互いに相手に抱いていながら蓋をしていた気持ちが、ついに跳ね飛んだのだろう。男女にはそういう瞬間がある。それ以来、ふたりは示し合わせて、ときどき秘密の時間を共有している。
本当は今こそ義父と話したい
「紗里さんは姉には知られたくない、僕は義父にも妻にも知られたくない。完全に秘密の関係をどこまで続けられるのか。義父だって10年目にしてバレていますからね」
そう言いながら、翔一郎さんは首を傾げた。
「自分でも不思議なんですよ。僕は美緒への愛情はまったく減っていないつもりなのに、どうして他の女性と関係をもっているのか……。しかも美緒には罪悪感があまりない。帰宅して娘の顔を見ると、少し心が痛むけど。恋愛と結婚と不倫は違う、なんていう屁理屈を言うつもりはないんです。美緒については彼女のブラックなところを見て少し引きましたが、だからといって愛していないわけではない。それなのに紗里さんへの新しい気持ちは、どんどん強くなっている。今になって義父の気持ちがよく理解できるようになりました。本当は今こそ義父と話したいけど、こればかりはそうもいかない」
だが接客のベテランであるママには見抜かれるのではないか。当初は翔一郎さんもそう思っていた。だが、ママは妹の紗里さんが離婚後、「男はこりごりみたい」と決めつけている。そういう決めつけは目を鈍らせるのかもしれない。
「知られないようにしようと誓い合う気持ちが、僕と紗里さんの関係を強くしている。そんな気もします。こういうの、恋に浮かれた間抜けな考えなんだとわかってはいるけど、自分の恋心だけは純粋だと人は思うものかもしれませんね」
冷静に分析しながら恋に酔う。大人ならではの関係なのかもしれない。
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義父につられるようにして、翔一郎さんも不倫の道へ……。あれほど焦がれて結婚に至った妻を裏切ってしまって“平気”であることに、彼自身も不思議に思っているようだ。その運命のようななれそめは、【記事前編】で紹介している。
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