重厚作品ばかりが魅力じゃない「仲代達矢」 続編を望んでいた意外すぎるドラマとは

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 ペリー荻野が出会った時代劇の100人。第37回は11月に亡くなられた仲代達矢(1932~2025)だ。数多の大作で重厚な役を演じた名優が続編を望んだ作品は意外にも――。

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 11月8日に92歳でこの世を去った仲代達矢は、日本を代表する名優として数多くの舞台や映像作品に出演。主宰する俳優養成所・無名塾では役所広司ら多くの俳優を育てた。

 時代劇の代表作といえば、やはり黒澤明の作品だ。初出演は1954年の「七人の侍」で、通りすがりの浪人役だった。その後「用心棒」(61年)、「椿三十郎」(62年)、「影武者」(80年)、「乱」(85年)に出演。他にも、カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞するなど高く評価された小林正樹監督の「切腹」(61年)、「上意討ち 拝領妻始末」(67年)、「いのちぼうにふろう」(71年)、岡本喜八監督の「大菩薩峠」(66年)、五社英雄監督の「御用金」(69年)、「人斬り」(同)、「雲霧仁左衛門」(78年)、「闇の狩人」(79年)など、さまざまな監督の時代劇映画で次々と大役を務めた。

 テレビ作品ではNHKの大河ドラマ「新・平家物語」(72年)の平清盛役が印象に残る。清盛といえばツルツル頭の印象が強いが、実際に剃髪して演じたという。2007年の大河「風林火山」では信玄の父・武田信虎役を演じた。過激な性格の信虎は、後に信玄に追放される。その過激さが、仲代の目力によって表現されていたのは言うまでもない。

82歳で立ち回り

 25年ほど前、無名塾での初取材の際は緊張したが、お会いしてみるとにこやかでユーモアもたっぷり。楽しいインタビューとなった。

 90年代以降は、そうした人柄がにじむ時代劇作品への出演が増えた。

 文化庁芸術作品賞やギャラクシー賞テレビ部門推奨などを受賞した藤沢周平・原作のNHKドラマ「清左衛門残日録」(93年)では、息子に家督を譲ったやもめの老武士・三屋清左衛門役で主演。悠々自適ではあるが、少々さびしさも感じる清左衛門は、親友で町奉行の佐伯熊太(財津一郎)が持ち込むもめごと、陰謀、事件に関わる。息抜きは、彼を慕う女将・みさ(かたせ梨乃)が営む料理屋に立ち寄ること。同年代との出世争いや引退後の居場所探しなど、現代に通じるテーマも織り込まれた。

「60代にさしかかっていて、主人公の気持ちもよくわかったので、とても嬉しく、役に飛びついた。僕には珍しく“普通の人”で、色気もある人物だしね」

 80代に入っても、2作の長編時代劇に主演している。

 時代劇専門チャンネルが製作した「果し合い」(15年)は、家の跡取りにもなれずに無為な日々を送る「部屋住み」の老武士・庄司佐之助が若い姪の幸せを願って命懸けの働きをする物語。演出は「北の国から」(フジテレビ)で知られる杉田成道だ。

「僕が演じた佐之助は、武家の厄介者と言われる辛い立場の老人です。でも、暗くならず、飄々としながら、大切な姪っ子のために剣を抜く。藤沢周平作品らしい滋味があり、スリリングな物語でもあります。82歳で立ち回りもしました。自分にとって新境地を見出しそうと挑んだ作品です」

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