重厚作品ばかりが魅力じゃない「仲代達矢」 続編を望んでいた意外すぎるドラマとは

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カメラが回ると痛さを忘れる

 新境地を見出そうという意欲は変わらず、同じく時代劇専門チャンネルが製作した「帰郷」(20年)では、暗い過去を背負った老渡世人役を演じる。捨てたはずの故郷に舞い戻り、命を懸けた最後の勝負に出る――。藤沢周平の名作短編に惚れ込んだ仲代が、実に30年もの間、映像化を望んだ作品だった。仲代の心意気に共鳴した杉田監督、共演者は常盤貴子、三田佳子、橋爪功、中村敦夫らが揃い、信州・木曽福島でのロケも敢行された。

「昔は大規模ロケも多く、北海道で落馬した後も頑張った『影武者』を思い出しましたよ。僕らのような年齢になると名優扱いされて遠慮されることもあるけど、長い付き合いの杉田監督からは1年生のようにダメ出しが来る。僕も『もう一回』と言われると、できるかわかんないけど、とりあえず『はい』って言う(笑)。まるで役者になりたての新人みたいな気持ちになります」

 動きの激しい立ち回りの場面もあり、普段は速く走ったりすることはとてもできないが、カメラが回ると痛さを忘れるという。

「こんな動きはできませんとは言ったことがない。『カット!』と聞くと、ああ腰が痛いってなる(笑)。昔は絶対うまくやってやろうと思ったものですが、今は作品の中にうずもれる、ただそこにいて、監督の言う通りやるのがいいと思うようになりました」

 現場にいるのが実に嬉しそうだった。

無精ひげで女好きの老侍役

 もう一作、私が特に印象に残った作品について書いておきたい。02年にNHKで放送された「春が来た」。仲代と西田敏行。ふたりの大河ドラマ主演俳優の競演作だ。

 江戸の敏腕同心だった甘利長門(仲代達矢)は、老中の縁戚の辻斬りを見逃すはめになったことから自ら十手を返上。お払い箱になった御庭番・月形小介(西田敏行)とひょんなことで出会い、独り者の気楽さで自由に生きようと、それぞれ「太郎兵衛」「次郎兵衛」と名前を変えて第二の人生を歩もうとする。だが、不器用な二人はカネに困り、苦肉の策で共同生活をしていた荒れ寺を訳ありの男女に貸すことに。やがて太郎兵衛は身投げをしようとしていた謎めいた女・お美代(南野陽子)、次郎兵衛は食材屋「四季屋」の後家・おりせ(萬田久子)に一目惚れする。ようやく人生の春が来たとときめく二人は、思わぬ事件に巻き込まれる。

 原作は小池一夫。堅物役の多い仲代が無精ひげで女好きの老侍、とても身が軽いようには見えない西田が短剣でバシッバシッと手裏剣をはじき返す(CGです)。意外な役どころだが、渡辺貞夫による哀愁漂う主題歌とともに、名優二人は喧嘩したり、仲直りしたり、絶妙なやりとりをしながら、老いの切なさ、恋の喜び、孤独を見せて、笑わせ、泣かせる。

「とにかく楽しい作品だった。小池さんに続編をやりたいと言ったんだよ」

 重厚な大作も素晴らしいが、こういう役柄の作品がもっと注目されてもいいと思う。続編を実現してほしかった!

ペリー荻野(ぺりー・おぎの)
1962年生まれ。コラムニスト。時代劇研究家として知られ、時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」部長を務める。著書に「ちょんまげだけが人生さ」(NHK出版)、共著に「このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100」(講談社)、「テレビの荒野を歩いた人たち」(新潮社)など多数。

デイリー新潮編集部

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