「中国は核兵器を使用する可能性もある」 専門家が指摘する「台湾有事」で戦火が日本の領土に広がるリスク

国際 中国

  • ブックマーク

【前後編の後編/前編からの続き】

「存立危機事態」という言葉だけが独り歩きしているが、実際に台湾侵攻が起きた時に何が起こるか分かっている人間はどれほどいるのか。台湾海峡封鎖を発端に中台の衝突は東シナ海へ拡大、戦火は日本にも飛び火する。専門家たちによる恐怖のシミュレーション。

  ***

 前編【中国が台湾占領に成功する「二つのシナリオ」とは 仮に失敗しても「自衛隊は航空機112機、艦艇26隻を失う」】では、中国が台湾占領に成功する「二つのシナリオ」について報じた。

 元統合幕僚長の河野克俊氏が心配するのは、約2万人の台湾在留邦人のことで、

「民間機による救出活動は極めて困難になります。そのため、自衛隊法に基づく『在外国民等の保護措置』によって、自衛隊が邦人輸送を担うことになるでしょう。この措置の実行には受け入れ国の同意が必要です。台湾を国家として認めるか否かという政治的な問題はありますが、私としては、台湾当局の了解さえ得られれば、自衛隊による輸送は可能だと考えています」

 一方、専門家たちは戦火が日本の領土に広がる危険は、決して絵空事ではないとも述べる。

「尖閣諸島は戦略上の要衝です。ここに対空レーダーを置くと中国の動きが手に取るように分かるのですが、逆もしかり。台湾有事に乗じて、中国海警や武装漁民が尖閣周辺海域に侵攻する可能性は十分にあります」(元陸上幕僚長の岩田清文氏)

 元外務省職員で、米中関係や台湾問題に詳しい皇學館大学准教授の村上政俊氏も言う。

「台湾有事発生時、中国は在日米軍基地をミサイル攻撃する可能性が高い。この事態は集団的自衛権うんぬん以前の状況です。在日米軍基地への直接攻撃は、日本に対する武力攻撃と見なされ、個別的自衛権として武力の行使が可能となる『武力攻撃事態』だといえるからです」

 台湾有事が日本有事を招くというのである。

中国共産党は「核兵器の先制使用を検討するだろう」

 さらに問題視されているのが、中国が2010年に制定した「国防動員法」である。同法は、国家が戦争などの“国防上の危機”に直面した際、国家全体の人員・物資・組織を迅速に動員できるよう定めたものだ。また、この法律は中国政府の判断次第で、海外在住の中国人や中国系企業にも影響が及ぶ可能性があると指摘されている。

 元空将で麗澤大学特別教授の織田邦男氏が警鐘を鳴らす。

「一般の中国人はプロのスパイではないから、破壊活動などはできません。しかし、いざ中国の国防動員法が発動されれば、サボタージュやデモを行って日本国内の治安維持や経済活動にダメージを与えることはできるでしょう」

 それどころか、前出の岩田氏は核使用の可能性すら憂慮している。

「昨年、米国防総省が公表した中国軍に関する報告書には“台湾での軍事作戦で敗北し、中国共産党体制の存続が脅かされる場合は、核兵器の先制使用を検討するだろう”と明記されています」

 わが国を取り巻く「存立危機事態」から、もはや目を背けることはできまい。

 前編【中国が台湾占領に成功する「二つのシナリオ」とは 仮に失敗しても「自衛隊は航空機112機、艦艇26隻を失う」】では、中国が台湾占領に成功する「二つのシナリオ」について報じている。

週刊新潮 2025年12月4日号掲載

特集「『台湾有事は即日本有事』という恐怖のシミュレーション」より

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。