米デトロイト「低所得エリア」で感じたうらやましさ 日本に無くて “高貧困率のラストベルト”にあった光景

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超“車社会”

 まず、現地を歩いて気になるのが「車」のあれこれである。ビッグ3の本社があることもあり、日本車はあまり走っておらず、アメリカの多くの地方と同様に完全なる車社会。車がないと生活が成り立たないため低所得者層でも車を所有しており、現地のスラングでは「No whip, no life」(車なし=人生なし)と言うとか。街中で徒歩の人はほとんどいなかった。

 ゆえに買い物は、基本的に車で小売店に行き、カートいっぱいに商品を買い込むスタイルとなっている。日本のように街を歩けば至るところにコンビニがあるわけではなく、「なんとなく寄ってちょっと買い物をする」という環境にはない(改めて、日本のコンビニのありがたさを感じた)。日常の買い物は、基本的には車で10分前後で行ける場所で済ませるようだ。

 以前、住民の収入に応じた「階層」によってスーパーマーケットが使い分けられているロサンゼルス事情をレポートしたが(別記事「米ロサンゼルスのスーパーに見た『むき出しの貧富の差』 超高級~低所得5店でオレンジ価格を比較すると」参照)、それはデトロイトも同じだった。

 何を基準に“高い低い”とするのか様々なデータがあるが、本稿では便宜上、世帯年収10万ドル(およそ1,500万円)以上を富裕層、~4万ドル(=620万円)を中所得者層、それ未満を低所得層と定義しておきたい(あくまでアメリカの経済事情に照らしての区分けである)。こうした階層で分かれたエリアごとに小売業が出店しているわけだが、それとは別に「人種」によっても分かれており、例えば中東系の人が多く住む地域には、中東系の移民が経営するスーパーマーケットがあるというような傾向も見られた。

ウォルマートの“中国依存”

 低所得者層の消費を支えるものとして、EBT(Electronic Benefits Transfer)という、日本の生活保護制度に似たものがある。対象者には電子の決済用カードが配布され、チャージされた補助金でデリやスーパーで食品を買い求めることができる仕組みだ。かつては「フードスタンプ」と呼ばれる紙の券だったものが電子化された。この制度のおかげで、低所得者層でも、基本的には食べることに窮することはない。暖房費の補助も各州で積極的に提供されているといい、極端な困窮からは逃れやすくなっている。

 彼らを含めた中~低所得者層の暮らしを支えているのが、先ほども触れたウォルマートだ。扱う輸入品の6割が中国からで、国内生産がほとんどである食品などを含めた全体の売上ベースでも、中国製が20%前後を占めているとの分析がある。日用品や衣料、パーティグッズなど顧客を飽きさせないバラエティに富んだ品揃えはさすがであるものの、その多くを中国の低賃金労働者が製造し、アメリカの低所得者の生活を豊かにしているという現実には、少し考えさせられるものがある。

 だがよく考えると、購買層の幅広さに違いはあるものの、アパレルや生活雑貨、家具など日本も同じような構図の中で成り立っているのは間違いない。考えたくはないが、もし日中関係の悪化で中国からの輸入が止まれば、多くの生活必需品の購買が難しくなってしまうだろう。

 筆者は日頃ウォルマートで買い物をしているわけではないため、米中関税の影響で価格がどの程度上がっているかなどは肌感覚では分からない。だが、北米で9,000店以上を展開する「ダラーツリー」で一端はうかがえた。日本でいうところの“百円ショップ”で、もともとは1ドル(約150円)均一のディスカウントバラエティストアである。棚を見るとほとんどの商品が1.25ドルに値上げされ、クリスマスパーティグッズは1.5ドル、アパレルは3ドルと、明らかに価格が上がっている。関税合戦は収まりつつあるものの、こうした値上げがアメリカの年末商戦での個人消費にどんな影響を与えるのか、注視する必要がありそうだ。

 一方、富裕層が利用する、ダウンタウンから車で30分強の場所にある「サマーセット・コレクション」という高級ショッピングモールでは、消費が活発な様子が見て取れた。客層は白人が目立ち、先に触れた店舗で多く見かけた黒人やヒスパニック系の買い物客とは明らかに顔ぶれが異なった。まさにアメリカの消費の二極化を目の当たりにした形だ。富裕層の旺盛な消費は、いかにもアメリカ的でもあり、一方で世の中の不条理も感じさせる光景だった。

 とはいえ、ウォルマートの直近の四半期決算は、売上・利益ともに前年を上回り、先に述べたように富裕層からの支持の高まりが業績を押し上げている側面もあるようだ。高価格帯の店から離れ、ウォルマートに流入する富裕層が増えている可能性もあり、アメリカの消費が節約志向へとシフトしていくタイミングが来ているのかもしれない。

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