旅の思い出をネットにアップしたら「心霊写真だった」 カメラ好き女子大生が映した“季節外れの怪異”とは【川奈まり子の百物語】

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見切れた女性の服装は

 着いて間もなく、未佳さんがみんなに提案した。

「日没まで時間があるから、今のうちに記念写真を撮ろう」

 そのときはまだ陽の光も残っていたし、これから本格的に混雑してくることが予想された。彼女は三脚を使うつもりだったので、人が押し合いへし合いしはじめてから記念撮影をすることは避けたかったのだ。

 持参した一眼レフのデジカメをセットして、セルフタイマーで撮影をし、すぐに液晶画面で撮れた写真を確認した。

 すると、4人の右端にいる未佳さんの隣に、画面から半ば見切れて小柄な女性が写り込んでいるではないか。

 通行人が写ってしまったとしか思えないが、その人の服装が奇妙だ。

 半袖の服を着ているように見えるのだ。

 涼し気な水色の洋服で、夏の装いのような印象である。
 
 もっとも、その人物だけひどくブレていて、不鮮明ではあったから、たまたま半袖のように見えてしまっただけかもしれなかった。

 ブレているせいで顔立ちもわからない。だが、胸もとに毛先が届く黒髪のロングヘアで、横にいる未佳さんよりもやや小柄だった。だから、たぶん女性だろうと思われたのだが……。

「ねえ? 私たちのまわりに髪の長い女の人なんか、いなかったじゃない?」

 仲間のうちの誰かがそう言うと、他の誰かが甲高い声で「イヤッ」と小さく叫んだ。

「未佳、これって心霊写真じゃないの?」

 そう問われて、未佳さんは「そんなわけないよ」と答えた。

「デジカメは可視光線しか写せないんだから。言い換えると、見える物しか撮れないんだよ。だから、この人は物理的に存在して、きっとシャッターが下りた瞬間、私の横を早足で通り過ぎたんだね」

 ところが、気を取り直して撮影し直したところ、今度は未佳さん自身がブレブレに写ってしまったのであった。

 おまけに、さっきの写真で謎の人物が写り込んでいた辺りが、やけに黒っぽく翳っていた。

 これを見て、未佳さんも背筋が冷たくなるのを覚えたが、そうこうするうち日没が始まってしまった。

 写真を撮り始めると、たちまち怖さを忘れて夢中になった。

 それだけ、函館の夜景が素晴らしかったとも言えよう。

夜景とグルメ

 結局、そのときの記念撮影については、仲間の1人がスマホの自撮りで、夜景を背景に4人全員をうまく画面に収めることに成功したので、その写真をみんなでシェアして済ませることになった。

 函館山の後は、にぎやかな市街地へ移動して、海鮮料理が売りの和食レストランで北海道グルメに舌鼓を打った。
 
 そこでも未佳さんは写真を撮った。
 
 これも、さきほど撮った夜景の写真も、ストックサイトで売るつもりだった。

「未佳も早く食べな。イクラが乾いちゃう」

「うん。もう終わりにする」

 デジカメをしまおうとすると、仲間が「さっきの心霊写真、また見せてよ」と言った。

「ごめん。削除しちゃった」と彼女は応えた。

 すると見たがった当人が「そうなの? がっかり! 消す前に送ってもらえばよかった。あれはきっとバズッたよ」とおおげさに残念がって一同の笑いを誘った。

――しかし、実は、未佳さんは問題の2枚の写真を削除していなかったのだ。

 彼女は、水色の半袖を着た人物に心あたりがあった。

 そして、その人について友人たちに話すことを避けたかったのである。

 思い出すだけで胸が痛む出来事が付随していたからだ。

――― 
 未佳さんと友人との旅行写真に写ったロングヘアの女性。冬場の半袖姿と異常なブレかたに友人らは「心霊写真だ」と不気味がる。【記事後編】では、未佳さんが知る女性の正体が明かされる。

川奈まり子(かわな まりこ) 
1967年東京生まれ。作家。怪異の体験者と場所を取材し、これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集。怪談の語り部としても活動。『実話四谷怪談』(講談社)、『東京をんな語り』(角川ホラー文庫)、『八王子怪談』(竹書房怪談文庫)など著書多数。日本推理作家協会会員。怪異怪談研究会会員。2025年発売の近著は『最恐物件集 家怪』(集英社文庫8月刊/解説:神永学)、『怪談屋怪談2』(笠間書院7月刊)、『一〇八怪談 隠里』(竹書房怪談文庫6月刊)、『告白怪談 そこにいる。』(河出書房新社5月刊)、『京王沿線怪談』(共著:吉田悠軌/竹書房怪談文庫4月刊)

デイリー新潮編集部

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