賃金が上がらず失業率は上昇… 中国経済は「日本のバブル崩壊後のよう」 習近平は激怒でも「反日デモ」が起きない理由
「日本のバブル崩壊後の様相」
二つ目のカードはどうか。
「トヨタやユニクロなど中国に工場を持つ日本企業を対象にして、不買運動や生産停止措置などを行うのも簡単ではありません。中国経済は冷え込んでいて、国内の雇用を守る意味でも中国政府は日本の大企業を簡単にはたたけない。過剰な経済制裁を中国側が科せば、企業は安心してビジネスができません。日本、ひいては世界中からの投資が遠のきます。市場としての中国は魅力的でも、政治リスクの高さに世界の企業はへきえきしているのですから」(野嶋氏)
居丈高に日本を非難する中国の懐事情は、相当に厳しそうなのだ。
中国事情に精通するジャーナリストで、キヤノングローバル戦略研究所上席研究員の峯村健司氏が解説する。
「中国の経済状況は、日本のバブル崩壊後の様相を呈していて、すさまじいデフレが進んでいます。例えば上海でビールを1本買ったら2本おまけで付いてくるなんてキャンペーンをやっている店もある。北京の銀行に勤める知人いわく、レストランで3000円分の食事をすると、次回使える同額の食事券をもらえる。2回目は実質タダなのです。もはや完全なデフレ経済に陥っていて、賃金が上がらず失業率は高い。就職率も悪く国民の不満がたまっている。習主席は台湾統一くらいインパクトのあることをやらないと、許されないくらい追い込まれています。そうした事情もあって、国民の不満が中国共産党に向かうのだけは避けないといけない」
「世界レベルの反響は現状ない」
ゆえに、12年に日本が尖閣諸島を国有化した際のような激しい反日デモは、今回起きない可能性が高いとして、峯村氏はこう続ける。
「その当時ですら、現地で取材していると反日デモのドサクサに紛れて“胡錦濤(こきんとう)は下野しろ”と訴える人がいました。今は中国の経済状況がかなり悪いので、政府はデモを許してしまうと、その矛先が習体制に向けられることを恐れています。あの時よりも日本への怒りは強いですが、徹底的にコントロールしてデモは起こさないようにすると思います」
となると、中国に残された手駒は少ない。
野嶋氏が言うには、
「今、中国は世界の世論を巻き込んだ『認知戦』を仕掛けています。あらゆる外交の舞台でも日本の不当性を訴えていますが、現状の国際世論を見ても中国の友好国であるロシアや北朝鮮などの国々しか耳を貸さない。世界レベルの反響は現状ないと思います」
日本は冷静に自らの立場を示しつつ、大人の対応が求められているといえよう。
前編【「報復は中国人の首を絞める」 在日中国人経営者は「会社の経営も危ないね…」 渡航制限で「8割以上がキャンセルに」】では、中国政府による渡航制限によって、在日中国人経営者が被っている損害について報じている。
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