1990年代からクマを駆除した自治体に「かわいそう」と抗議が殺到…“クマ愛護”がハンターの「若手確保」を妨げる決定的な理由

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1990年代でも殺到した抗議電話

「何しろクマ駆除を批判する電話は地元の役場だけでなく、猟友会も狙い撃ちにしています。地元の住民は猟友会の現状をよく知っています。クマが異常な頻度で人間のエリアに現れるためパトロールや駆除に忙殺される。にもかかわらず、報酬はごくわずか。その上、世論から袋叩きとなると、誰だってハンターになろうとは思わないでしょう」(同・関係者)

 この問題が根深いのは、「クマがかわいそう」という意見や、行政に対する抗議電話は最近になって始まった社会現象ではないということだ。

「新聞記事のデータベースを調べると、少なくとも1990年代の終わりごろには『クマの駆除を実施すると、役場に抗議の電話が殺到した』という記事が掲載されていたことが分かります。さらに同じ頃、クマの問題に詳しい北海道新聞はヒグマさえ“展示”されれば『かわいい』と観光客が殺到する状況を懐疑的に伝えました。一部の観光業者が経営優先でヒグマを飼育している実態をレポートしたほか、“見世物”という人工的な空間でクマと人間の“偽りの生態”を見て喜ぶ観光客の姿にも疑問を呈しました」(前出の担当記者)

犠牲者が増えても変わらない「かわいそう」

 仮に1990年代を“クマかわいそう”の原点だと規定したとしても、少なくとも日本には40年近くにわたって「クマは可愛い」という価値観や、過剰な動物愛護の観点が広がってきたことが分かる。

 だからこそ、「クマを殺すのはかわいそう」という行政に対する抗議も40年間、ずっと繰り返されてきたわけだ。

「今年のクマ被害で大問題なのは、犠牲者も非常に多い点です。11月5日の時点で、クマに襲われて亡くなった人は13人を数えます。2023年度は6人だったので倍以上に増えていることになります。ところが、これほど深刻な人的被害が発生していても、新聞社がクマの保護に取り組む団体に取材を依頼すると、『クマがかわいそうだという主張に行政は耳を傾けるべきだ』と答えるのです。この問題の根は深いと言わざるを得ません」(同・記者)

 抗議運動の悪影響を乗り越え、地元出身の新人ハンターの育成に成功したとしても、そのハンターが威力の強い猟銃を所持できないという問題も指摘されている。

 第1回【「クマ駆除」を担う新人ハンターが“命の危険”に晒される懸念も…「長野県中野市4人殺害事件」がカゲを落とす「ハーフライフル規制」とは】では、なぜクマの駆除に力を発揮するハーフライフルの規制が強化され、駆除に支障を来すことになったのか、その意外な理由について詳細に報じている──。

デイリー新潮編集部

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