サザンオールスターズのデビュー曲に「面白い、こういうユーモアが大事なんだよ」…“稀代の作詞家”が語った「絵空事」のリアリティ

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ピンク・レディーがヒットした理由

 本題はここから。

 そんなチャコが、作詞家・阿久悠(07年没、享年70)、作曲家・都倉俊一(77)とタッグを組んで大旋風を巻き起こしたのが、70年代後半のピンク・レディーだった。

 連載では、阿久悠没後10年のトリビュート盤「地球の男にあきたところよ」を語る、という体裁を取った。阿久は小説も書き、作詞を手がけた歌謡曲は5000を数える巨匠でもあり、歌謡曲に関する書籍を何冊も残している。話の中心は、阿久が大衆心理を鷲掴みするために心得ていたことについてだった。

 ここでも印象深いのは、ピンク・レディーのデビュー曲「ペッパー警部」をめぐるエピソード。これはビクター時代の話である。

 阿久の意表を突く歌詞、超ミニをはいたピンク・レディーの二人が、大胆に股を開く土居甫(07年没、享年70)の振付……この破天荒な企画に、社内で異論が噴出したのは言うまでもない。チャコは編成会議で「あれはなんだ! 伝統あるビクターの一員として恥ずかしくないのか」と詰問された。しかし、ひるまず押し切った。

 その時、阿久は「総論賛成はダメ、やっぱり賛否両論でないと」と、チャコを慰めたという。「ペッパー警部」は不発だったが、次曲の「S・O・S」は放送禁止だったモールス信号に似た音を入れ、それを新聞で煽ってもらったことが功を奏し、チャート1位を獲得。それにつられて、「ペッパー警部」にも火がつき、大ヒット。「ピンク時代」の幕が開いた。「賛否両論」の教えである。

 阿久の著書『愛すべき名歌たち―私的昭和曲史』(岩波書店)にこんな下りがある。

〈ぼくも、都倉俊一も、土居甫も、ディレクターの飯田久彦も夢を食った〉

 同じく阿久の本『昭和と歌謡曲と日本人』(河出書房新社)に、「エルビスの春」という項がある。歌謡曲が私小説的になっているけど、花も実もある絵空事であってもいいと阿久はいう。今風にいえば、コンピューターの電子音で心象風景を歌った曲より、ぶっ飛んだ遊び心を盛り込んだ曲でもいいということだろう。

 例えば、サザンオールスターズのデビュー曲「勝手にシンドバッド」(作詞・作曲 桑田佳佑)。このタイトルは沢田研二の「勝手にしやがれ」と、ピンク・レディーの「渚のシンドバッド」を合体させたもの。この企画についての阿久悠の見解は「面白い。こういうユーモアが大事なんだよ」だった。

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