クロちゃんと盲目芸人の共演がなぜ“神回”に? 「水ダウ」がバラエティの枠を超えて感動を与えた理由

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必死で意思疎通

 盲目の芸人と声が出せない状態の芸人が対面して、必死で意思疎通を図る姿は、人間の根源的なコミュニケーション欲求を描き出しているようだった。ヘレン・ケラーの伝記に書かれているような状況がそのまま再現されていた。

 それが大反響を巻き起こしたもう一つの理由は、彼らが芸人として有能だったからだ。それぞれが全力で目の前の人に向き合い、意思を伝えようとしていた。濱田は礼儀正しく振る舞い、言葉で的確に状況を説明したり心情を語ったりしながら、鋭いツッコミも見せていた。クロちゃんは、「クロちゃんさん」というふうに名前に「さん付け」をしてほしくないという謎のこだわりを発揮して、濱田をあきれさせていた。それぞれの芸人としての持ち味が見事に発揮されていたからこそ、視聴者に感動と共にさわやかな笑いの余韻を残していた。

 濱田は2018年にピン芸日本一を決める「R-1ぐらんぷり」で優勝を果たしている実力派芸人である。自分自身の障害のこともネタにする漫談を得意としている。

 ただ、その実力の割に、彼は全国ネットのバラエティ番組ではこれまであまり活躍の場を与えられていなかった。それは、テレビの作り手側が彼のような障害のあるタレントをどのように扱えばいいのかわかっていない、ということが大きかったと考えられる。

 今回の企画では、濱田はクロちゃんと前向きにコミュニケーションを取ろうとした上で、ところどころで的確なツッコミをいれて笑いを取ったりもしていた。その頭の回転の速さには多くの視聴者が驚いていた。この企画は彼にとって大きな転機となる可能性がある。

 クロちゃんと濱田祐太郎という2人の芸人のやり取りは、バラエティ番組の枠を超えて、多くの人々に感動と気付きを与える貴重な場面となったのである。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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